・・・「……諏訪――の海――水底、照らす、小玉石――手には取れども袖は濡さじ……おーもーしーろーお神楽らしいんでございますの。お、も、しーろし、かしらも、白し、富士の山、麓の霞――峰の白雪。」「それでは、お富士様、お諏訪様がた、お目か・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・こっちは、商売、慾張ってますから、両三度だけれど覚えていますわ。お分りにならない筈……」 と無雑作な中腰で、廊下に、斜に向合った。「吉原の小浜屋が、焼出されたあと、仲之町をよして、浜町で鳥料理をはじめました。それさ、お前さん、鶏卵と・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・ 古来有名なる、岩代国会津の朱の盤、かの老媼茶話に、奥州会津諏訪の宮に朱の盤という恐しき化物ありける。或暮年の頃廿五六なる若侍一人、諏訪の前を通りけるに常々化物あるよし聞及び、心すごく思いけるおり、又廿五六なる若侍来る。好き連と・・・ 泉鏡花 「遠野の奇聞」
・・・そういっては、十貫十ウの、いまの親仁に叱られるかも知れないけれど、皆が蓮根市場というくらいなんですわ。」「成程、大きに。――しかもその実、お前さんと……むかしの蓮池を見に、寄道をしたんだっけ。」 と、外套は、洋杖も持たない腕を組んだ・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・はぐらかすとは様子にも見えないから、若い女中もかけ引きなしに、「旦那さん、お気に入りまして嬉しゅうございますわ。さあ、もうお一つ。」「頂戴しよう。なお重ねて頂戴しよう。――時に姐さん、この上のお願いだがね、……どうだろう、この鶫を別・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・あの狭い練兵場で、毎日、毎日、朝から晩まで、立てとか、すわれとか、百メートルとか、千メートルとか、云うて、戦争の真似をしとるんかと思うと、おかしうもなるし、あほらしうもなるし、丸で子供のままごとや。えらそうにして聨隊の門を出て来る士官はんを・・・ 岩野泡鳴 「戦話」
・・・光代は傍に聞いていたりしが、それでもあの綱雄さんは、もっと若くって上品で、沈着いていて気性が高くって、あの方よりはよッぽどようござんすわ。と調子に確かめて膝押し進む。ホイ、お前の前で言うのではなかった。と善平は笑い出せば、あら、そういうわけ・・・ 川上眉山 「書記官」
・・・ 雨がやんで、夫は逃げるようにそそくさと出かけ、それから三日後に、あの諏訪湖心中の記事が新聞に小さく出ました。 それから、諏訪の宿から出した夫の手紙も私は、受取りました。「自分がこの女の人と死ぬのは、恋のためではない。自分は、ジ・・・ 太宰治 「おさん」
・・・ けれども、やがて、上の姉さんが諏訪法性の御兜の如くうやうやしく家宝のモオニングを捧げ持って私たちの控室にはいって来た時には、大隅君の表現もまんざらでなかった。かれは涙を流しながら笑っていた。・・・ 太宰治 「佳日」
・・・連句でもたとえば、「入りごみに諏訪の涌湯の夕まぐれ」「中にもせいの高い山ぶし」は全くこの手法によったものである。 映画で同時に別々の場所で起こっている事がらの並行的なモンタージュによって特殊の効果を収める。「餅作るならの広葉を打ち合わせ・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
出典:青空文庫