・・・は女の性器官のうちで一番大切な役目をもったものです。 その「子宮」が前屈したり後屈したりして婦人が苦しむのは、勤労の不規則な条件からだけだ。長い時間腰をかけたっきりでいる――長い時間立ったぎりでいると、 また、仕事のひまがなくて長い・・・ 宮本百合子 「ソヴェト映画物語」
・・・プチト・ファデットが自分の特別に荒い境遇を変化させて自分の真情からの愛をも完うしてゆく勤勉で精気にみちた姿は、人生への知性というものは、ああいう風にも現れるという活々としたよろこばしい見本の一つである。 又、近頃堀口大学氏の手で「孤児マ・・・ 宮本百合子 「知性の開眼」
・・・原始社会に広く行われた信仰の一つである性器の崇拝は、人間創造の自然力に驚嘆した我々の祖先の率直な感情表現であった。 こういう時代には人類の男女は生物的に自然に従えられていただけであった。だから山の獣が自然の魅力で異性を見出し、それに引き・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・苦しく、重く閉されていた重吉の表情はほぐれはじめて、二つの眼の裡にはいつもの重吉の精気のこもった艶が甦っている。ひろ子は、うれしさで、とんぼがえりを打ちたいようだった。「生きかえって来た、生きかえって来た」 ひろ子は、小さい声で早口・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・社会が未開であったとき、性の神秘は人間誕生のおごそかなおどろきとむすびあわされて、性器崇拝となった場合もあった。けれども日本のいまの肉体文学のように、人間の理性の働きの面を抹殺した性への溺死は、軍国主義やファシズムの人間性抹殺のうらがえしの・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
・・・合法的な一つの政党である正規の共産党員が世界に二千数百万人いることを私たちは現代常識の一つとして知っていなければならない。その指導者と考えられる五百余名の人々の、四〇パーセントが閣僚、代議士であることも知っていなければならない。人道主義的な・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・そこへただ一点、精気を凝して花弁としたような熾んな牡丹の風情は、石川の心にさえ一種の驚きと感嘆をまき起した。「――見事に咲きましたな、旦那」 幸雄は、とうに石川の来たのを知ってでもいたかのようにゆっくり云った。「きれいじゃないか・・・ 宮本百合子 「牡丹」
・・・実際生産用具はそのように欠乏に欠乏を重ねて来るのに、増産の必要は昂まるし、一方には正規の増産とその配給とを攪乱するような農業会、統制会、闇売買が横行して、農村では近年の一つの病的な社会現象として、物がないのに金はあるという状態になって来た。・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
唐の貞観のころだというから、西洋は七世紀の初め日本は年号というもののやっと出来かかったときである。閭丘胤という官吏がいたそうである。もっともそんな人はいなかったらしいと言う人もある。なぜかと言うと、閭は台州の主簿になってい・・・ 森鴎外 「寒山拾得」
・・・もしこれをしも背理なものとして感覚派なるものに向って攻撃するものがありとすれば、それは前世紀の遺物として珍重するべきかの「風流」なるものと等しく物さびたある批評家達の頭であろう。風流なるものは畢竟ある時代相から流れ出た時代感覚とその時代の生・・・ 横光利一 「新感覚論」
出典:青空文庫