・・・戦争のためにできたらしい小工場が至るところに小規模な生産をやっている。ともかくも自分の子供の時にはみんな貴重な舶来物であった品物が、ちゃんとここらのこんな見すぼらしい工場でできてきれいなラベルなどをはられて市場に出てくるのであろう。それだけ・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・ 西洋へ行く前にどうしても徹底的にわるい歯の清算をしておく必要があるのでおおよそ半月ほど毎日○○病院に通った。継ぎ歯、金冠、ブリッジなどといったような数々の工事にはずいぶんめんどうな手数がかかった。抜歯も何本か必要であったが、昔とちがっ・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・それはちょうど手ぬぐい浴衣もあればつづれ錦の丸帯もあると同様なわけであって、各種階級の購買者の需要を満足するようにそれぞれの生産者によって企図され製作されて出現し陳列されているに相違ない。 商品として見た書籍はいかなる種類の商品に属する・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・科学という霊妙な有機体は自分に不用なものを自然に清算し排泄して、ただ有用なるもののみを摂取し消化する能力をもっているからである。しかしもしも万一これら質的研究の十中の一から生まれうべき健全なるものの萌芽が以上に仮想したような学風のあらしに吹・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
・・・富の分配の不平等に社会の欠陥を見て、生産機関の公有を主張した、社会主義が何が恐い? 世界のどこにでもある。しかるに狭量神経質の政府は、ひどく気にさえ出して、ことに社会主義者が日露戦争に非戦論を唱うるとにわかに圧迫を強くし、足尾騒動から赤旗事・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・ 安岡は研ぎ出された白刃のような神経で、深谷が何か正体をつかむことはできないが、凄惨な空気をまとって帰ったことを感じた。 ――決闘をするような男じゃ、絶対にないのだが。―― 安岡は、そんな下らないことに頭を疲らすことが、どんなに・・・ 葉山嘉樹 「死屍を食う男」
・・・ 彼女は、マニラの生産品を積んで、三池へ向って、帰航の途についた。 水夫の一人が、出帆すると間もなく、ひどく苦しみ始めた。 赤熱しない許りに焼けた、鉄デッキと、直ぐ側で熔鉱炉の蓋でも明けられたような、太陽の直射とに、「又当てられ・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・いまより十年を過ぎなば、童子は一家の主人となりて業を営み、女子は嫁して子を生み、生産の業、世間に繁昌し、子を教うるの道、家に行われ、人間の幸福、何物かこれに比すべけん。今年すでに一万五千の数あり、明年に至らば、また増して三万となり、他の府県・・・ 福沢諭吉 「京都学校の記」
・・・ 明治一五年一一月編者識 徳育如何 青酸は毒のもっとも劇しきものにして、舌に触れば、即時に斃る。その間に時なし。モルヒネ、砒石は少しく寛にして、死にいたるまで少しく時間あり。大黄の下剤の如きは、二、三時間以上を経・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・神学者にでも言わせようものなら、「生産的静思」なんぞと云うだろう。そう云う態度に自身を置くことが出来るように、この男は修養しているのである。オオビュルナン先生はこんな風に考えている。もっともそれは先生だけの考えかも知れない。文人は年を取るに・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
出典:青空文庫