・・・流れ動き生成する男女の結合こそ愛とよばれるべきものだと信じている一人の生活的な女にとって、当時の日本の通念であった家庭の平和の観念や、夫婦愛家庭愛における女の無主張の立場は恐怖を与えた。結婚にからむ親たちとの相剋も非条理に思えた。二十歳の女・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・そしてそれは、そう言われるにふさわしい、気苦労のない、日常生活の進行は大人にまかして、自分達は愉快に学校に通い、友達と遊び、すくすくと生成して行ってよいという生活だったと思います。けれども戦争が始まり、特に大東亜戦争が始まってから少女達の生・・・ 宮本百合子 「美しく豊な生活へ」
・・・ ギリシア人たちが、生命は動く元素から成るといい、デモクリトスが原子論をとなえたのはひろく知られているが、その時から千三四百年経った今日では、電気が発見されていて、人間の生成をふくむ宇宙の諸関係というものがきわめて複雑な相互作用の千変万・・・ 宮本百合子 「幸福の感覚」
・・・ 世界思想史について些の常識を有する者には小林氏の以上のようなロシア文学史についての見解はそれなり賛同しかねるであろうし、特に明治社会と文化との生成の間、全く未開のまま通過され異質のものに覆われてしまった中江兆民の時代の思想の意義を、抹・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・自然があるものを蔵していても、人間がその必要を認めて、それを掘り出したり、精製したりする生産のための活動を開始しなければ、それは全くないも同じだということは、今日国と国とが激烈な争奪戦を行っている石油と石炭についても分る。 さらに文化の・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
・・・作品はその自からなる生成の密度で比重が重く沈澱して左右水平の動きを示している上で、作家が体一つで上下動的運動を示し、とび上ったり落ちたり、そのことの重さで益々作品は平たくおしつぶしてゆくような奇妙な姿が現れた。 或る種の作家にとっては一・・・ 宮本百合子 「昭和十五年度の文学様相」
・・・「時々朝起きると気分がせいせいして頭がはっきりすることがある。で、筆を執ると面白く筆が運ぶ。翌日それを読んで見る。なるほどよく出来てはいるが肝腎なものが欠けているので皆抹殺してしまう。イメージネーションがない。才がない。その或るものがな・・・ 宮本百合子 「透き徹る秋」
・・・主として重油、機械油、リグロイン等を精製するのだそうであるが、その露天泉を眺めた時、自分は別府温泉の地獄まわりで坊主地獄と云ったか、それを思い出した。黒石油は重く、泥が煮えるように湧き立っているのである。 二露里ばかり行ったところに白石・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・地球の生成からヴェルサイユ会議にまで及ぶその内容は、各専門部門にそれぞれ専門家の知識が動員されていて、委員として四十何名かの学者たちが参加している。 北川三郎氏の訳による大系二冊は、努力の仕事であると思うが、本が大きくて机の上にどっしり・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・小市民の中にある客観的な、自己陶酔でない、歴史とともに前進してゆく進歩性、つまりブルジョア・リアリズムを着実な生成の過程で発展させてゆこうとする進歩性が、社会と芸術の前衛たりうるのではないでしょうか。前衛という言葉の意味は、歴史性のなかでま・・・ 宮本百合子 「第一回日本アンデパンダン展批評」
出典:青空文庫