・・・いろいろ物そうなので、町々では青年団なぞがそれぞれ自警団を作り、うろんくさいものがいりこむのをふせいだり、火の番をしたりして警戒しました。 郊外から見ると、二日の日なぞは一日中、大きなまっ赤な入道雲見たいなものが、市内の空に物すごく、お・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・去歳の春、始めて一書を著わし、題して『十九世紀の青年及び教育』という。これを朋友子弟に頒つ。主意は泰西の理学とシナの道徳と並び行なうべからざるの理を述ぶるにあり。文辞活動。比喩艶絶。これを一読するに、温乎として春風のごとく、これを再読するに・・・ 田口卯吉 「将来の日本」
・・・そうして時たま私に手紙を寄こして、その娘の縁談に就いて、私の意見を求めたりなどして、私もその候補者の青年と逢い、あれならいいお婿さんでしょう、賛成です、なんてひとかどの苦労人の言いそうな事を書いて送ってやった事もあった。 しかし、いまで・・・ 太宰治 「朝」
・・・その外青年貴族のするような事には、何にも熟錬している。馬の体の事は、毛櫛が知っているより好く知っている。女の容色の事も、外に真似手のない程精しく心得ている。ポルジイが一度好いと云った女の周囲には、耳食の徒が集まって来て、その女は大幣の引手あ・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・ 寺に行って、O君に会って、種々戦場の話などをしたが、ふと思い出して、「小林秀三っていう墓があったが、きいたような名だが、あれは去年、一昨年あたり君の寺に下宿していた青年じゃないかね」「そうだよ」「いつ死んだんだえ?」「つい・・・ 田山花袋 「『田舎教師』について」
・・・ドイツの大家プランクはこの論文を見て驚いてこの無名の青年に手紙を寄せ、その非凡な着想の成効を祝福した。 ベルンの大学は彼を招かんとして躊躇していた。やっと彼の椅子が出来ると間もなく、チューリヒの大学の方で理論物理学の助教授として招聘した・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・ 桂三郎は静かな落ち着いた青年であった。その気質にはかなり意地の強いところもあるらしく見えたが、それも相互にまだ深い親しみのない私に対する一種の見えと羞恥とから来ているものらしく思われた。彼は眉目形の美しい男だという評判を、私は東京で時・・・ 徳田秋声 「蒼白い月」
・・・ 母親は、三吉と小学校で同級だった町の青年たちの名をあげて、くりごとをはじめる。早婚な地方の世間ていもあるだろうが、何よりも早く倅の尻におもしをくっつけたい願望がろこつにでていた。「――牛は牛づれという。竹びしゃく作りには竹びしゃく・・・ 徳永直 「白い道」
・・・当時わたくしは猶二十七八歳の青年であった。然るに今や老年と疾病とはあらゆる希望と気魄とを蹂み躙ろうとしている。此の時に当って、曾て夜々紐育に巴里にまた里昂の劇場に聞き馴れた音楽を、偶然二十年の後、本国の都に聴く。わたくしは無量の感慨に打たれ・・・ 永井荷風 「帝国劇場のオペラ」
・・・其時は既に盗ではなかった其不幸な青年は急遽其蜀黍の垣根を破って出た。体は隣の桑畑へ倒れた。太十は一歩境を越して打ち据えた。其第一撃が右の腕を斜に撲った。第二撃が其後頭を撲った。それがそこに何も支うるものがなかったならば怪我人は即死した筈であ・・・ 長塚節 「太十と其犬」
出典:青空文庫