・・・ そこをすかさず、金をせびる。俗に「ヒンブルを掛ける」のだ。 それ故の「ヒンブルの加代」だが、べつに「兵古帯お加代」という名も通っている。 洋装はせず、この腕の刺青をかくすための和服に、紫の兵古帯を年中ぐるぐる巻きにしているから・・・ 織田作之助 「夜光虫」
・・・ばしている大腹中のしたたか者の蟠踞して、一種特別の出し風を吹出し、海風を吹入れている地、泣く児と地頭には勝てぬに相違無いが、内々は其諺通りに地頭を――戦乱の世の地頭、銭ばかり取りたがる地頭を、飴ばかりせびる泣く児のように思っている人民の地、・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・あの写真があなたをせびるようにして、あなたから出来るだけの美しさや、御様子のよさや、才智を絞り出してくれたのでございますね。あの頃わたくし全くあなたに惚れていましたの。ですからあなたの長所が平生の倍以上になったのがどんなにか嬉しゅうございま・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「最終の午後」
出典:青空文庫