・・・た無用の詮議立てに相違ないのであるが、心理学的には見のがすことのできない問題である。従って創作心理の研究者にとっては少なくもひとまずは取り上げて精査してみなければならない問題である。「あぶらかすりて」の次に「新畳敷きならしたる月影に」の句が・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・之を喩えば青天白日、人に物を盗まれて、証拠既に充分なるに、盗賊を捕えて詮議せんとすれば則ち貪慾の二字を持出し、貪慾の心は努ゆめゆめ発す可らず、物を盗む人あらば言語を雅にして之を止む可し、怒り怨む可らず、尚お其盗人が物を返さずして怒ることあら・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ トルーマン再選にからんで、これだけのことをくりかえすことは、意地のわるい詮議だてともおもえるかもしれない。しかし、日本の婦人であるわたしたちの未来の運命についておもいひそめたとき、こういう詮議だてはあながち女の意地わるさから出発してい・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・次の戦争に利用することのできる八千五百万の人口と計算されているその日本の人民の数のうちに在りながら、野暮な詮議はどこかのひと隅へおしこんで、望月のかけるところない群々の饗宴がつづいた姿だった。 二 前年まで・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ブルジョア批評は、うるさく作品の詮議だてをして、うまいとかまずいとか、書けている、いないと云うが、彼等は自分の世界観を階級性に狭められているため、プロレタリア文学についていう場合、それが何をどう書こうとしているかさえ見えないということが明白・・・ 宮本百合子 「小説の読みどころ」
・・・一旦常に変った処置があると、誰の捌きかという詮議が起る。当主のお覚えめでたく、お側去らずに勤めている大目附役に、林外記というものがある。小才覚があるので、若殿様時代のお伽には相応していたが、物の大体を見ることにおいてはおよばぬところがあって・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・ 人買いが立ち廻るなら、その人買いの詮議をしたらよさそうなものである。旅人に足を留めさせまいとして、行き暮れたものを路頭に迷わせるような掟を、国守はなぜ定めたものか。ふつつかな世話の焼きようである。しかし昔の人の目には掟である。子供らの・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・独身で小倉に来ているのを、東京にいるお祖母あさんがひどく案じて、手紙をよこす度に娵の詮議をしている。今宵もそのお祖母あさんの手紙の来たのを、客があったので、封を切らずに机の上に載せて置いた。 大野は昏くなったランプの心を捩じ上げて、その・・・ 森鴎外 「独身」
出典:青空文庫