・・・もうお座敷に行ったろうからだめだと、――そして、井筒屋ははやらないが、井筒屋の独り芸者は外へ出てはやりッ子なんだから――あきらめて、書見でもしようと、半分以上は読み終ってあるメレジコウスキの小説「先駆者」を手に取った。国府津へ落ちついた当座・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・今、残ってる椿岳の水彩や油画はいずれも極めて幼稚な作であるが、番附面における如く洋画家としてもまた多少認められていたとすると、椿岳の名は日本の洋画史の先駆者の一人としてもまた伝えられべきである。 かつ椿岳の水彩や油画は歴史的興味以外に何・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・高い木立の頂きに暁の風は、自然の眠りを醒ます先駆の叫びのように聞かれた。私は世間の多くの人々が、此夜から暁になろうとしている瞬間の自然の景色を、自分の如くこうして外に立って親しく知る者が幾人あろうと考えた。……私は其処に新しい詩材を見出すこ・・・ 小川未明 「ある日の午後」
・・・芸術家は、先駆者であり、彼等の行動は、真に犠牲的精神から発する。しかるに、アカデミックの芸術は、旧文化の擁護である。旧道徳の讃美である。 私達は、IWWの宣言に、サンジカリストの行動に、却って、芸術を見て、所謂、文芸家の手になった作品に・・・ 小川未明 「芸術は革命的精神に醗酵す」
・・・またこの革新的気分と、人生的の感激を有しないセンチメンタリズムが詩を綴っていたら詩の精神を有しないばかりでなく、常に、新生活創始に先駆たるべき文化の精神を、誤るものだということを憚らないのであります。 詩の誤解されていることも久しいけれ・・・ 小川未明 「芸術は生動す」
・・・ 詩はついに、社会革命の興る以前に先駆となって、民衆の霊魂を表白している。例えばこれが労働者の唄う歌にしろ、或は革命の歌にしろ、文字となってまず先きに現われるということは事実である。そして、芸術の形をつくるのである。それは最も感激的に、・・・ 小川未明 「詩の精神は移動す」
・・・ そうした心の静けさとかすかな秋の先駆は、彼を部屋の中の書物や妄想にひきとめてはおかなかった。草や虫や雲や風景を眼の前へ据えて、ひそかに抑えて来た心を燃えさせる、――ただそのことだけが仕甲斐のあることのように峻には思えた。「家の・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・ フォイエルバッハはヘーゲルからエンゲルスの橋渡しとして、ヘーゲルの弁証法を唯物弁証法に媒介した意味で科学的社会主義の先駆ともいえる。 彼によれば「人間相互の共同」が真理の普遍性の最初の原理である。認識において自己以外の他の物体の存・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・の大精神はすでに彼においてあり、彼は日本主義の先駆者であった。しかも彼のそれは永遠の真理の上に、祖国を築き上げんとする宗教的大日本主義であった。 彼の伝記はすでに数多い。今私がここにそれをそのまま縮写するのみでは役立つこと少ないであろう・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・猶、新時代の先駆者たりし北村君に就いては、話したいと思うことは多くあるが、ここにはその短い生涯の一瞥にとどめておく。 島崎藤村 「北村透谷の短き一生」
出典:青空文庫