・・・という宣告のごときはもはや何の刺激にもならない。神はもともと存在しなかったのである。そこで人間は現世の欲望の満足を唯一の目標として生活する。彼を束縛するものはただこの満足のための功利的節度のほかに何ものもない。 しかし人はこの物質的な世・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
・・・ もし突然私の身の上に「死」が迫って来た時、私はただ恐怖に慄えるばかりだろうか、あるいはこれを悪魔の業として呪うだろうか、もしくはまた神の摂理として感謝をもって受けるだろうか。 もし先刻の事件をもって推論することが許されるなら、私は・・・ 和辻哲郎 「停車場で感じたこと」
・・・「人はすべて死刑を宣告せられている、ただ死刑執行の日がきまらないだけだ」という言葉がある。これは Man is mortal を言い換えたに過ぎないが、しかし特に私の胸を突く。そうだ、ただ日がきまらないだけだ。死の宣告はもう下っている。・・・ 和辻哲郎 「停車場で感じたこと」
出典:青空文庫