・・・これについてそれぞれ博学な考証家の穿鑿をまつ事ができれば幸いである。しかし私がここでこういう未熟で大胆な所説をのべることのおもな動機は、そういう学問的のものではなく、むしろただ一個の俳人としてのまた鑑賞家としての「未来の連句」への予想であり・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・現に博士論文と云うのを見ると存外細かな題目を捕えて、自分以外には興味もなければ知識もないような事項を穿鑿しているのが大分あるらしく思われます。ところが世間に向ってはただ医学博士、文学博士、法学博士として通っているからあたかも総ての知識をもっ・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・其婬心の深浅厚薄は姑く擱き、婬乱の実を逞うする者は男子に多きか女子に多きか、詮索に及ばずして明白なり。男女同様婬乱なれば離縁せらるゝとあれば、男子として離縁の宣告を被る者は女子に比較して大多数なる可し。然るに本書には特に女子の婬乱を以て離縁・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・一、維新の頃より今日に至るまで、諸藩の有様は現に今人の目撃するところにして、これを記すはほとんど無益なるに似たれども、光陰矢のごとく、今より五十年を過ぎ、顧て明治前後日本の藩情如何を詮索せんと欲するも、茫乎としてこれを求るに難きものある・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・妓楼酒店の帰りにいささかの土産を携えて子供を悦ばしめんとするも、子供はその至情に感ずるよりも、かえって土産の出処を内心に穿鑿することあるべし。この他なお細かに吟味せば、蓄妾淫奔・遊冶放蕩、口にいい紙に記すに忍びざるの事情あらん。この一家の醜・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・家を移すに豆腐屋と酒屋の遠近をば念を入れて吟味し、あるいは近来の流行にて空気の良否など少しく詮索する様子なれども、肺に呼吸する空気を論ずるを知りて、子供の心に呼吸する風俗の空気を論ずる者あるを聞かず。世の中には宗旨を信心して未来を祈る者あり・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・ あるいはいわく、倫理教科書は道徳の新主義をつくりたるに非ず、東西先哲の論旨を述べてその要を示したるまでのものなれば、その何人の手になり、また何の辺より出でたる云々の詮索は、無益の論なりとの説もあらんなれども、鄙見をもってすれば決して然・・・ 福沢諭吉 「読倫理教科書」
・・・就中彼らは耶蘇教の人なるが故に、己れの宗旨に同じからざる者を見れば、千百の吟味詮索は差置き、一概にこれを外教人と称して、何となく嫌悪の情を含み、これがために双方の交情を妨ぐること多きは、誠に残念なる次第にして、我輩は常にその弁明に怠らず。日・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・ 偶然の中に於て自然を穿鑿し種々の中に於て一致を穿鑿するは、性質の需要とて人間にはなくて叶わぬものなり。穿鑿といえど為方に両様あり。一は智識を以て理会する学問上の穿鑿、一は感情を以て感得する美術上の穿鑿是なり。 智識は素と感情の変形・・・ 二葉亭四迷 「小説総論」
・・・これはちと穿鑿に過ぎた推論である。しかしこんなのが女にありそうな心理状態だと思うと、特別の面白みがある。 ピエエル・オオビュルナンはわざとらしく口の内でつぶやいた。「ああ。そんな事はどうでもいいのだ。十六年前の事を思ってみると、あのマド・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
出典:青空文庫