・・・倅仲平が学問修行も一通り出来て、来年は三十になろうという年になったので、ぜひよめを取ってやりたいとは思うが、その選択のむずかしいことには十分気がついている。 背こそ仲平ほど低くないが、自分も痘痕があり、片目であった翁は、異性に対する苦い・・・ 森鴎外 「安井夫人」
・・・書物の選択から推して見ると、この男は宗教哲学のようなものを研究しているらしい。 大きな望遠鏡が、高い台に据えて、海の方へ向けてある。後に聞けば、その凸面鏡は、エルリングが自分で磨ったのである。書棚の上には、地球儀が一つ置いてある。卓の上・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・そこに現われたのは写実によって美を生かそうとする意図ではなく、美しい色と線との諧和のために、自然の内からある色と線とを抽出しようとする注意深い選択の努力である。現実の風景を描いた画すらも、画家の直接の印象が現われているという気はしない。画家・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・主として画題選択の斬新であるが、時には珍しい形象の取り合わせ、あるいは人の意表にいづるごとき新しい図取りを試みる。しかしこれらの画家を動かしているものは、岡倉覚三氏の時代の自然観、芸術観であって、その手腕の自由巧妙なるにかかわらず、我らの心・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
・・・ 第二に我々の気づいたことは、人形の動作がいかに鋭い選択によって成っているかということであった。この選択は必ずしも今の名人がやったのではない。最初、人形芝居が一つの芸術様式として成立したのは、この選択が成功したということにほかならぬので・・・ 和辻哲郎 「文楽座の人形芝居」
出典:青空文庫