・・・えば、著者自身にふれている重要な事実――現代の一部の作家が心の内部へ内部へと掘り下げてゆく過程の叙述をのみ書きたがっているという現象について、それがいかなる心理的理由によるものか、それを科学的実験的に闡明してはいけないのだろうか。「ユリ・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・バルザックの矛盾を闡明し得ぬ同時代的矛盾を自身のうちにもっている。ブランデスは品がいい天質のひとですね、私はやはり同じ作家の研究について、そういう感じをうけました。そして、ところどころで思わずにやついた。ブランデスはあんなに鋭く背景となった・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・民衆一般が手近に分りやすく知り得ない諸事情の錯綜の結果、或は率直に闡明され得るなら分明となるはずのところをそれが出来ない事情があるため、一層ものごとが複雑になっているというような、二重の複雑が平凡な民衆の生活の思いよらぬ心持の隅にまで影響し・・・ 宮本百合子 「今日の文学に求められているヒューマニズム」
・・・多難なリアリズムの問題、文学の真の意味での大衆性の課題の一部を、氏は題材そのものが歴史の中で持つ現実性の正当な闡明によって解決しようとしたのであった。大衆の生活に入りこんでいる最低の文化水準としての講談本、或は作者の好む色どりと夥しい架空的・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・客観的に描かれてみれば誰の目にも、そういう命令の与えかたのむごさははっきりしたのだけれども、そのむごさが鮮明に感銘されればされるほど、そういうものを書くのは忘恩的だという判断が、わたしに向けられた。そんなにその頃は、絶対性が卒業生の気分を支・・・ 宮本百合子 「歳月」
・・・『現代文学論』の第一篇、第三篇、第四篇、第五篇、第六篇は、次々に推移したそのような生活と文学との相貌を、具体的な個々の文学現象にふれて、文学的要因から闡明している。 時間の上からは第一篇についで書かれた第二篇は、それらの諸問題と必然・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・ だが、『プラウダ』の批評のような表現でジイドが示した影響の政治的性質だけをとりあげられても、従来ジイドの人間的良心というものをそれなりに見て来た一部の人は、具体的な矛盾の本質までは闡明されず、納得しかねるのではあるまいか。 ジイド・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・という論文を骨子として、反プロレタリア文学の鮮明な幟色の下に立った。同人としては中村武羅夫、岡田三郎、加藤武雄、浅原六朗、龍胆寺雄、楢崎勤、久野豊彦、舟橋聖一、嘉村礒多、井伏鱒二、阿部知二、尾崎士郎、池谷信三郎等の人々であった。中村武羅夫の・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・の作者の社会性を肯定したのであるが、巨大なバルザックの体の中に驚くばかりごたごたにつめこまれている矛盾を歴史の発展の方向で闡明することは不可能であった。バルザックの全生涯、全芸術の最も大きな骨組みをなす矛盾は、彼が自身の現実生活で満喫した社・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・特に、最近世界情勢の必然から文化・文学におけるヒューマニズムの運動が擡頭しつつある折から、批評文学にとって以上の諸要点は更に益々その錯綜した具体的諸関係の中で闡明される必要がある。この一冊の評論集の内容が、今日の新しい社会と文学との情勢の中・・・ 宮本百合子 「『文芸評論』出版について」
出典:青空文庫