・・・ 前項「灸治」について高松高等商業学校の大泉行雄氏から書信で、九州福岡の原志兔太郎氏が灸の研究により学位を得られたと思うという知らせを受けた。右の原氏著「お灸療治」という小冊子に灸治の学理が通俗的に説明されているそうである。一見・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ 罪悪と反対な人間の善行に関する記事もまれには見受けるが、それがひとたび新聞記事となって現われると不思議にその善い事の「中味」が抜けてしまって、妙にいやな気持ちの悪い「輪郭」だけになっている場合がかなり多いように思われる。そういう種類の・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・同情を表すべき善行をかきながら、同情を表してはならぬと禁じたのがこの作であります。いくら真相を穿つにしても、善の理想をこう害しては、私には賛成できません。もう一つ例を挙げます。今度はゾラ君の番であります。御爺さんが年の違った若い御嫁さんを貰・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・死ねば天堂へ行かれる、未来は雨蛙といっしょに蓮の葉に往生ができるから、この世で善行をしようという下卑た考と一般の論法で、それよりもなお一層陋劣な考だ。国を立つ前五六年の間にはこんな下等な考は起さなかった。ただ現在に活動しただ現在に義務をつく・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・また道徳の課にいたりては、特別に何主義を限らず、ただ教師朋友相互の責善談話をもって根本となし、その読むところの書は人々の随意に任じ、嘉言善行の実をしておのずから塾窓の中に盛ならしむるを勉むるのみ。 かくの如くして多年の成跡を見るに、幾百・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」
・・・ 階級闘争の実践の過程で階級的基準をぬいた善行というものはあり得ない。まず第一にこれがアレゴリーの性質とブツかる。 第二に、アレゴリーは、静的だ。静思的だ。それだから、たとえそれが反抗的な要素によってつくられていても、直接に、大胆に・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
・・・ 新たなリアリズムの提唱が一九三二年後半になされて以来、方向を抹殺していることから理解の混乱低下、批判なき市井風俗的文学が現実を描くものとして輩出したことは、前項でふれた。 一方プロレタリア文学の作家は、社会情勢の推移とともに、新し・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・或る人が何か善行をする。或る男が破廉恥な罪悪を犯す。その善行なり、悪行なりの素因を万人は彼等の心事に見出そうとするように、私共が、或る国民の生活を観察する場合、漠然となりとも正鵠を得た、民族的気質を知らなければいけないと思うのです。 そ・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・ 如何なる罪悪も、善行も、地球は平然として、我胸の上で行わせて居る。 そして、亡びねばならぬ運命を作ったものは、地球が何の手も出さない内にさっさと亡びてしまう。 まことに面白い事だと思う。 その度量の広いと云う事が、我々の様・・・ 宮本百合子 「曇天」
出典:青空文庫