・・・であるが、しかしもしそういう人たちがかりにそういう人たちとは反対にわざわざ難儀で要領を得ない質的研究をしている少数な人たちの仕事を、意識的、ないしは無意識的に discourage しあるいは積極的に阻止するようなことが、たまにならばともか・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
・・・彼らが企の成功は、素志の蹉跌を意味したであろう。皇天皇室を憐み、また彼らを憐んで、その企を失敗せしめた。企は失敗して、彼らは擒えられ、さばかれ、十二名は政略のために死一等を減ぜられ、重立たる余の十二名は天の恩寵によって立派に絞台の露と消えた・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・淫祠の興隆は時勢の力もこれを阻止することが出来ないと見える。 行手の右側に神社の屋根が樹木の間に見え、左側には真暗な水面を燈火の動き走っているのが見え出したので、車掌の知らせを待たずして、白髯橋のたもとに来たことがわかる。橋快から広い新・・・ 永井荷風 「寺じまの記」
・・・而してその素志果して行われたるか、案に相違の失望なるべし。人事の失望は十に八、九、弟は兄の勝手に外出するを羨み、兄は親爺の勝手に物を買うを羨み、親爺はまた隣翁の富貴自在なるを羨むといえども、この弟が兄の年齢となり、兄が父となり、親爺が隣家の・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・ゆえにかの士君子も、天与の自由を得て、その素志を施すものというべし。また我が党の士、幽窓の下におりて、秋夜月光に講究すること、旧日に異なることなきを得て、修心開知の道を楽しみ、私に済世の一斑を達するは、あにまた天与の自由を得るものといわざる・・・ 福沢諭吉 「中元祝酒の記」
・・・日本ではキリスト信者が戦争を阻止しなかった事実によってゆらいでいるのである。今日、聖母マリアの信仰を美しい言葉で語る人がいる。しかし現代の世紀にピエタのマリアでないほかのマリアがどこの世界にあり得るだろうか。ピエタのマリアを死と破壊の肯定者・・・ 宮本百合子 「生きつつある自意識」
・・・マルヌの戦闘が始まってドイツ軍の攻撃は阻止された。 二人の娘たちはまだブルターニュにいた。マリアは彼女たちに向って、この新しい希望を語り「小さいシャヴァンヌに物理学の勉強をさせなさい。あなたはもしフランスの現在のために働けないとしたらフ・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・これらのものは過去の社会制度、組織、または生れながらにして与えられた性的関係――これは日本の女だけかも知れないが――女の個性の充分の発達を阻止しつつあるからではないのでしょうか。 この芸術に専念する力を阻止するもの、今それをデリケートな・・・ 宮本百合子 「今日の女流作家と時代との交渉を論ず」
・・・男性が長い間の内に女性に加えた圧迫は、彼女等の発達を阻止して仕舞いました。其でありながら其の原因を蒔いた者が、女性の無智を侮蔑するのは、丁度自分の背後を自らの剣で刺すようなものではございますまいか、恐るべき因果でございます。女性が無言の裡に・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・侵略的な戦争強行に抵抗して、現実にそれを阻止する力もないのに、ひとりよがりでじたばたするから、つかまったり、いじめられたりするのだ、と思われる傾きがあった。治安維持法はなるほど野蛮だが、その野蛮な法律がある以上、それにひっかかることをするな・・・ 宮本百合子 「世紀の「分別」」
出典:青空文庫