・・・そこでその手が血に染んでいないことだけはたしかな永井荷風の作品、谷崎潤一郎の作品などが、当時の営利雑誌に氾濫し、ある意味で今日デカダンティズム流行の素地をつくった。そして、戦争の永い年月、人間らしい自主的な判断による生きかたや、趣味の独立を・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・それは人間的な素地として、其々の専門部門への特別な天稟とともに備えている。其々の時代の制約と闘うということも共通である。苦心するのも共通である。「ロダンの言葉」という二巻の本がある。これが、ロダンの芸術を益々ふかく理解させるばかりか、後・・・ 宮本百合子 「「青眉抄」について」
・・・という和歌の措辞法を巧に転化させた結びで技巧の老巧さをも示しているのであるが、「春やいづこ」にしろ、やはり『若菜集』に集められた詩と同じく、自然は作者の主観的な感懐の対象とされている。移りゆき、過ぎゆく自然の姿をいたむ心が抽象的にうたわれて・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
・・・美妙のどったんばったん的措辞も幾分その余波にや○雲中語に、紫琴という女流作家の名が見える。誰であろう。よい作品はなかったらしいが。○鷸掻、三人冗語、雲中語をとびとびによみ、明治文学史のよいのが一日も早く出ることを希う。・・・ 宮本百合子 「無題(六)」
・・・君子道徳と結びつき得る素地は、ここに十分に成立しているのである。 この道徳の立場は、「敵を愛せよ」という代わりに「敵を敬せよ」という標語に現わし得られるかもしれない。「信玄家法」のなかに、敵の悪口いうべからずという一項がある。敵をののし・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・むしろ自分の内のすべてを流動させ、燃え上がらせ、大きい生の交響楽を響き出させる素地をつくるのです。 この「教養」は青春期においては、その感覚的刺激の烈しくない理由によって、きわめて軽視されやすいものです。しかしその重大な意義は中年になり・・・ 和辻哲郎 「すべての芽を培え」
出典:青空文庫