・・・社会的モラルの問題となし得る先行的な事実、新たな芸術創造のための素地の探求、理解の具体性として、生活事情と色感とのなまなましい関係が今日の問題としていかに深められているか、と考えるのであった。 二 こういう・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・モラトリアムが、インフレ防止の非常措置として布かれた。モラトリアムは物価との睨み合わせで、はじめて本当にものを云うのである。ところが、三月に入ってから、あらゆる物価は騰げられた。配給の米、醤油、そういう基本になる生活物資が約三倍になった。省・・・ 宮本百合子 「現実の必要」
・・・謂わばそれらの賞によって文学を産む素地の萎縮を救い得るかのように考えた既成作家の文学観が問わるべきであろう。社会の現実の内で所謂知識階級と民衆との生活の游離が純文学を孤立化せしめた動機であることに疑ないのである。 ヒューマニズムの問題に・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・そして、現実の文壇処世としては、一般の教養的素地の未熟さを逆に反映してのこけおどしの教養ぶりも出現した。その意味では、この時期における教養尊重の風は、漱石時代より萎靡したものであったと云い得るのである。 幾変転を経て、今日、私たち作家は・・・ 宮本百合子 「作家と教養の諸相」
・・・ 雑信 C先生。 其方は如何でございますか、此の紐育から二百哩程隔った湖畔は、近頃殆ど毎日の雨に降り籠められて居ります。或時は、俄に山巓を曇らせて降り注ぐ驟雨に洗われ、或時はじめじめと陰鬱・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・「そして老舗となる素地を蓄えたのである」「戦後のハッタリ精神とヤミの没落は文学の面でも象徴的であった」火野葦平は文学に対する同人雑誌の任務、出版関係が「昔にかえった」ことを慶祝している。 戦後の出版界の空さわぎは、出版社というものが、つ・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・左手はずっと砂丘つづきで、ぼんやり灰色にかすんでいる。其方の方に向って、私の家の女中が一人で一生懸命に走って行く姿が小さく見える。良人が、「何にしに行くのだ?」と云うようなことを訊いた。私は其方を眺め、なかなか遠く迄行かなければなら・・・ 宮本百合子 「静かな日曜」
・・・日本の文学精神が変らずにはすまない素地は歴史のこの辺のところに在るかもしれないのだ。 こんにちの空虚であって、しかもジャーナリズムの上での存在意欲ばかりはげしい文学現象を、現代人の「楽しみというものは、だんだん贅沢になるから、小説だって・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・ そのような文学の動きは、新しい社会的な素地から作家と作品を成長させて来たばかりでなく、当時既に作家としてある程度の活動と業績を重ねた作家たちをも、各自の角度に従ってこの文学運動の中に引き入れた。先に触れた藤森成吉、秋田雨雀のほか片岡鉄・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ 彼等の先へ、二人連れの男がぶらぶら行くのでなほ子はそう云ったのであったが、少し行くと其方は行き止りであった。「おやおや、怪しい道案内だな。――誰か訊く人はないか――訊いて見よう」「大丈夫よ、じゃあ此方」 一つの共同風呂の窓・・・ 宮本百合子 「白い蚊帳」
出典:青空文庫