・・・ 伝右衛門は、こう云う前置きをして、それから、内蔵助が濫行を尽した一年前の逸聞を、長々としゃべり出した。高尾や愛宕の紅葉狩も、佯狂の彼には、どのくらいつらかった事であろう。島原や祇園の花見の宴も、苦肉の計に耽っている彼には、苦しかったの・・・ 芥川竜之介 「或日の大石内蔵助」
・・・おまけに高尾のうまれ土地だところで、野州塩原の温泉じゃないけども、段々の谷底に風呂場でもあるのかしら。ぼんやりと見てる間に、扉だか部屋だかへ消えてしまいましたがね。」「どこのです。」「ここの。」「ええ。」「それとも隣室だった・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・柳橋の三浦屋サ先日高尾が無理心中をしたその跡釜へ今日小紫を抱えたのサもっとも小紫は吉原の大文字に居たのだが昨日自由廃業したと、チャント今朝の『二六』に出て居るじゃないか、とまじめにいうと、アラいやだよ人を馬鹿にしてる、あなたはきっといい処が・・・ 正岡子規 「煩悶」
・・・君とねようか千石とろか、ままよ千石、君とねよと、権利ずくな大名の恋をはねつけ、町人世界の意気立ての典型と仰がれた高尾も、女としての自由な選択は、自分を買って金をつむものの間にだけ許された。つまれた金は高尾のものではなかった。廓の経営者、お店・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・三井高雄氏のような東洋屈指の大財閥の一族ならば、妻をつれ、娘をつれ、何処へ行くのも当然だろうが、片山哲の一行がコーへ行ったばかりか、ドイツ、イギリス、フランス、アメリカと巡遊して、帰ってきた菊江夫人から「あちらでは家事が機械化されていて、便・・・ 宮本百合子 「再武装するのはなにか」
・・・平凡な構成ではあるが、ジュン、兄のジョージ、その両親の移民第一世、第二世としての生活を作品の中心にきっかりと据えて、それらの人々との交渉の間にキーラムという人物、道代という娘、持田、高雄、など、それぞれの人物、ウェスレー教会でのような特徴的・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
出典:青空文庫