・・・ その、扇子を引ったくると、「あなたよ、こんなものを置いとくだ。」 と叱るようにいって、開いたまま、その薄色の扇子で、木魚を伏せた。 極りも悪いし、叱られたわんぱくが、ふてたように、わざとらしく祝していった。「上へのっけ・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・ 二人はまるで籠を引ったくるようにして、ムシャムシャムシャムシャ、沢山喰べてから、やっと、「おじさんありがとう。ほんとうにありがとうよ。」なんて云ったのでした。 男は大へん目を光らせて、二人のたべる処をじっと見て居りましたがその・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・ 小一時間も掛って漸う赤門の傍まで来た時、車をよける拍子か何かに、引ったくる様にして持って来たリンゴを風呂敷の包み目から二つ程、ドロンコの中にころがして仕舞った。 どんな工合にしてそれを持って行ったか覚えないが、とにかくどうにか斯う・・・ 宮本百合子 「追憶」
・・・ミハイロとヤーコブとは、ここぞとばかりその手の指を踵で踏みたくる。 マクシムの命を救ったのは彼の沈着で豪毅な気性と素面であったことであった。この椿事のためにマクシムは七週間も患った。その夏ヴォルガ河口に在るアストラハン市で凱旋門を建てる・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫