・・・ きのう読んだ辰野氏のセナンクウルの紹介文の中に、次のようなセナンクウルの言葉が録されてあった。「生を棄てて逃げ去るのは罪悪だと人は言う。しかし、僕に死を禁ずるその同じ詭弁家が時には僕を死の前にさらしたり、死に赴かせたりするのだ。彼・・・ 太宰治 「織田君の死」
・・・ これは、私の文章ではありません。辰野隆先生訳、仏人リイル・アダン氏の小話であります。この短い実話を、もう一度繰りかえして読んでみて下さい。ゆっくり読んでみて下さい。薄情なのは、世間の涙もろい人たちの間にかえって多いのであります。芸術家・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・仏蘭西語を一字も解し得なかったけれども、それでも仏蘭西文学の講義を聞きたかった。辰野隆先生を、ぼんやり畏敬していた。私は、兄の家から三町ほど離れた新築の下宿屋の、奥の一室を借りて住んだ。たとい親身の兄弟でも、同じ屋根の下に住んで居れば、気ま・・・ 太宰治 「東京八景」
辰野隆先生の「仏蘭西文学の話」という本の中に次のような興味深い文章がある。「千八百八十四年と云うのであるから、そんな古い事ではない。オオヴェルニュのクレエルモン・フェラン市にシブレエ博士と呼ぶ眼科の名医が居た。彼は独創・・・ 太宰治 「女人訓戒」
・・・去年の秋の所見によると塩尻から辰野へ越える渓谷の両側のところどころに樹木が算を乱して倒れあるいは折れ摧けていた。これは伊那盆地から松本平へ吹き抜ける風の流線がこの谷に集約され、従って異常な高速度を生じたためと思われた。こんな谷の斜面の突端に・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・『人間』十一月号に、獅子文六、辰野隆、福田恆存の「笑いと喜劇と現代風俗と」という座談会がある。日本の人民が笑いを知っていないということについて語りあわれているのだが、その中に次のような一節がある。辰野 福田さんの「キティ颱風」だって・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・┐ 辰野隆 ├ 福田恒存 ┘福田恒存 諷刺、喜劇はジャーナリズムでも要求されているし 読者の要望もある。江戸時代の諷刺、喜劇はアブソリューティズムがあって、それに対する・・・ 宮本百合子 「東大での話の原稿」
出典:青空文庫