・・・しかしそういう批評をいくら読んでみても一方の映画のどういう点がどういうわけで、どういうふうによく、他方のがどうしていけないかという具体的分析的の事はちっともわからないのであった。こういうふうに純粋に主観的なものは普通の意味で批評とは名づけに・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・と、このような区別は必ずしも唯一無二ではないのである。早わかりのするためには最極端な場合を考えてみればよい。すなわち、一方には、およそ有りふれた陳套な題材と取り扱い方をした小説の「創作」と、他方では、最独創的な自然観人生観を盛った随筆の「中・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・それを雁首に挿込んでおいて他方の端を拍子木の片っ方みたような棒で叩き込む。次には同じようにして吸口の方を嵌め込み叩き込むのであるが、これを太鼓のばちのように振り廻す手付きがなかなか面白い見物であった。またそのきゅんきゅんと叩く音が河向いの塀・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・自分のこの大蒜の場合について考えてみると、あるいはこの些細な副食物が、一方では自分等の家庭と、他方では重兵衛さんで代表された一つの階級の家庭との間のあらゆる物質的また精神的な差別の象徴として印象されたものではなかったかとも思われるのである。・・・ 寺田寅彦 「重兵衛さんの一家」
・・・この中絶をなくするために二台の器械を連結してレコードの切れ目で一方から他方へ切りかえる仕掛けがわが国の学者によって発明されたそうであるが、一般の人にはこの中断がそれほど苦にならないと見えて、まだ市場にそういう器械が現われた事を聞かない。・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・その襟巻を行儀よく二つ折りにした折り目に他方の端をさし込んだその端がしわ一つなくきちんとそろって結び文の端のように、おたいこ結びの帯の端のように斜めに胸の上に現われていた。こういういで立ちをした白皙無髯、象牙で刻したような風貌が今でも実には・・・ 寺田寅彦 「俳諧瑣談」
・・・きわめて卑近の一例を引いてみれば、庭園の作り方でも一方では幾何学的の設計図によって草木花卉を配列するのに、他方では天然の山水の姿を身辺に招致しようとする。 この自然観の相違が一方では科学を発達させ、他方では俳句というきわめて特異な詩を発・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・そして、一方で新しい不思議が多量に加わると同時に、他方ではこの新しい不思議が、かえって古い不思議のなぞを解くかぎとなりうる可能性を暗示するようにも見えた。それは単に語彙中のあるもののみならず、その文法や措辞法に、東西を結びつける連鎖のような・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・そして、現世の組織、制度に対しては社会主義が他方に在る。と、まあ、源は一つだけれども、こんな風に別れて来ていたんだ。 社会主義を抱かせるに関係のあった露国の作家は、それは幾つもあった。ツルゲーネフの作物、就中『ファーザース・エンド・チル・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・ さらに他方には、東京の巣鴨にある十文字こと子女史が経営している十文字高等女学校では、十文字女史の息子が経営している金属工場の防毒マスクの口金仕上げのために、昨今は自分の女学校の四年と五年の生徒の中の希望者を、放課後二時間ずつ働かせてい・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
出典:青空文庫