・・・対談の作家たちが、もしこの現実の他面では自分たちがどんな貧弱な読者として置かれているかということを痛感していたなら、恐らくあの調子は変らざるを得なかったのだろうと思う。〔一九四一年二月〕・・・ 宮本百合子 「今日の作家と読者」
・・・金銭というものの一つの側から云えば、いかにも値うちの小さいものとなりつつある感覚が表現されているといえるし、他面には、逆にきょう日この札一枚あればともかく何でも買える、その何でもの一つとして本も買えるという気持も、むき出しに出ている。本も買・・・ 宮本百合子 「今日の読者の性格」
・・・として『新思潮』の同人たちが、歴史的題材の小説に赴いたことの心理的要因には第一次欧州大戦につれて擡頭した新しい社会と文学の動きに対して、従来の文学的地盤に立つ教養で育った新進作家たちが、一面の進歩性と他面の保守によって、題材を過去にとる方向・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・ 今日の国家経済の方針に依って、文化の大衆化に重大な関係を持っている紙と印刷費用とは高騰する一方であるから、一時のように同人雑誌の刊行も困難になり、他面発表機関も困難になることから、雑誌を持っていてその誌上を割き与えることの出来る作家の・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・運動に関して真に学ぶべきところは、一九三四年の人民の人間的自主性を守らんとする要求によって結ばれた広くして強い文化の線が、ファシズムに反対の立場を保っているという共同的な一点によって、他面では多く異質なものを蔵しているフェルナンデス流の行動・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・私は過去の生活が割合に順調であった為めに、それから享容れた或る純真さはあったかも知れないが、他面に於て前に述べた伝統から享容れた欠点のある事も否めない事実であるから、これからは一切の不純な気持、身に附き添った色々なこだわりから離脱し、創作境・・・ 宮本百合子 「女流作家として私は何を求むるか」
・・・明治以来の社会生活の急激な推移は、わるい形で外国崇拝を習慣づけているばかりでなく、日常の生活感情をも多面的に変化させている。過去の芸術上の美は、改めた目で見直され、改めて美しさのそれぞれの典型として歴史の中に評価され直さなければ、後代の生活・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・ないけれども、民主主義文学の諸問題の各面をそれぞれに担当して、ずっとよんで綜合してみれば、なるほど、民主主義文学の発展のためには、これこれの問題があると、しっくり会得できるというふうな意味での客観的な多面性又啓蒙性を示したものではありません・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・その作家がその作品を描くにあたっての創作の方法、文学的な美および善とされているものの性質、それらを作品の生きている感銘そのものにおいて分析、綜合して、より新しいより多面な創造の養いとしてゆく、その過程においてこそ、一つの文学の勉強がある。古・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
・・・その政治の貧困さを補充してゆくためには、民主的な政治そのものの具体的な成熟が期待されると同時に、文学は文学の側から自身の独自性のうちにより人間らしい政治性を豊富に発育させ、政治の多面性を証拠だてても行かなければならない。それは作家の資格にお・・・ 宮本百合子 「孫悟空の雲」
出典:青空文庫