・・・ もし東京市民が申し合せをして私宅の風呂をことごとく撤廃し、大臣でも職工でも皆同じ大浴場の湯気にうだるようにしたら、存外六ヶしい世の中の色々の大問題がヤスヤス解決される端緒にもなりはしまいか。こんな事を考えてみたこともある。 風呂場・・・ 寺田寅彦 「電車と風呂」
・・・岡崎賢七とか云う人と同室へ入れられ、宅へ端書したゝむ。時計を見ればまだ三時なり。しかし六時の急行に乗る積りなれば落付いて眠る間もなかるべしと漱石師などへ用もなき端書したゝむ。ラムネを取りにやりたれど夜中にて無し、氷も梨も同様なりとの事なり。・・・ 寺田寅彦 「東上記」
・・・この事実がもし我郷土の研究者に何かの暗示を与える端緒ともならば大幸である。 寺田寅彦 「土佐の地名」
・・・余はその罪のない横顔をじっと見入って、亡妻のあらゆる短所と長所、どんぐりのすきな事も折り鶴のじょうずな事も、なんにも遺伝してさしつかえはないが、始めと終わりの悲惨であった母の運命だけは、この子に繰り返させたくないものだと、しみじみそう思った・・・ 寺田寅彦 「どんぐり」
・・・これが現代の科学的方法の長所であると同時に短所である。この両者は実は合して一つの有機体を構成しているのであって究極的には独立に切り離して考えることのできないものである。人類もあらゆる植物や動物と同様に長い長い歳月の間に自然のふところにはぐく・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・自分はこの問題に関してまだ少しも系統的に考察をしてみたわけではないが、ただわずかばかり思いついただけのことをここにしるしてそういう考察の端緒とし、また後日の参考に供したいと思う。 ある一つの市井の人事現象、たとえばある銅像の除幕式の光景・・・ 寺田寅彦 「ニュース映画と新聞記事」
・・・ それでも彼が二十六の歳に学校を卒業してどうやら一人前になってから、始めて活版刷の年賀端書というものを印刷させた時は、彼相応の幼稚な虚栄心に多少満足のさざなみを立てたそうである。しかし間もなくそれが常習的年中行事となると、今度はそれが大・・・ 寺田寅彦 「年賀状」
・・・名前はやはり新聞でもそれはさしつかえないが、ともかくも現在の日刊新聞の短所と悪弊をなるべく除去して、しかもここに仮定した必要の知識を必要な程度まで供給する刊行物である。 私はこの二三年ロンドンタイムスの週刊を取っている。これがロンドンで・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・日本やドイツの誰彼に年賀の絵端書を書きながら罎詰のミュンシナーを飲んでいるうちに眠くなって寝てしまった。 明くれば元旦である。ヴェスヴィオ行きの準備をして玄関へ出ると、昨日のポルチエーが側へ来て人の顔を見つめて顔をゆがめてそうして肩をす・・・ 寺田寅彦 「二つの正月」
・・・と云って見学をすすめておいたが、その後の端書によるとやはり見に行ったそうである。それ以来逢わぬからまだこの人のレビュー観を詳らかにすることが出来ない。 数日たった後に帝劇で映画の間奏として出演しているウィンナ舞踊団を見た。アメリカのと比・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
出典:青空文庫