・・・二つの作品には自然発生的な萌芽として、新しい日本の人民生活の文学の端緒と、現代文学が私小説から脱却してゆく可能の方向及びこれからの日本文学が実質的に世界文学の領野に参加し、そこでになってゆくべき現実の性格などについて、示唆をふくんでいる。・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第七巻)」
・・・ プロレタリア文学運動が、端緒的であった自身の文学理論を一歩一歩と前進させながら、作品活動も旺盛に行っているのに対して、ブルジョア文学は、そのころから不可抗に創造力の衰退と発展性の喪失をしめしだした。日本資本主義高揚期であった明治末及び・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・ 師範卒業生佐田の安直ぶりが、階級的発展の端緒としての意味をもつ未熟さ、薄弱さとして高みから扱われているのではなく、作者須井自身にとっても弱い一点であることは、「幼き合唱」のところどころの文章にうかがわれる。大体作者はいわゆる筆が立つと・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・ 作家が、作家となる最も端緒的な足どりは周囲の生活と自分のこうと思う生活との間で自覚される摩擦である。階級的にどんな立場をとるに至るにしろ、先ず自己というものの意識、それを確立しようとする欲望から出立することは小林多喜二の日記を見てもわ・・・ 宮本百合子 「落ちたままのネジ」
・・・わたしとしては、過去のプロレタリア・リアリズムが主張した階級対立に重点をおいた枠のある方法では、階級意識のまだきわめて薄弱な女主人公の全面を、その崩壊の端緒をあらわしている中流的環境とともに掬いあげ切れない。佐々という中流層の家庭の崩壊過程・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・モチーフを、「作家の内的要求が、テーマの直観的な端緒を」とらえるものとして理解することは、私たちの心の具体的なありように即している。「モチーフとは、作品にとっては作者なる母体につながる臍の緒である」本当にそうではないだろうか。 例えば青・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・いるし、努力的な勉強にも学ぶべき点を発見していますが、この一点に関してはおそらく作者自身より、あるいは野上さんが十分自覚されなかったであろうほど、それを社会的な意味で自分自身が作家的生涯において解決の端緒をあたえなければならない重荷のひとつ・・・ 宮本百合子 「女流作家多難」
・・・世界文化の水平線の上に露わされている旧日本文化の後進性とその深い由来とをきわめつくし、その努力を足場として前進して行く明察と勇気との中にこそ新日本文学の端緒が期待されるのである。〔一九四五年十月〕・・・ 宮本百合子 「新日本文学の端緒」
・・・というレーニンの人間らしい洞察に立って具体的モメントをさがしてゆくと、サークルの端緒的な文学的活動の可能性は豊富で、一方には小説や詩をかく人、そのほかは愛好者たちとわけただけでは、あまり多くの潜精力が眠らされることがわかって来る。 徳永・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
・・・解決の端緒を社会的な契機の中に見出していないことから、彼女はこの自身の矛盾を大局からつかみ得ず、自分の行動をも客観的に批判し得ないのである。「女一人大地を行く」に書かれているまでのアグネス・スメドレーは、不屈な闘志と生来の潔白な人間的欲・・・ 宮本百合子 「中国に於ける二人のアメリカ婦人」
出典:青空文庫