・・・この二つの短詩形の中に盛られたものは、多くの場合において、日本の自然と日本人との包含によって生じた全機的有機体日本が最も雄弁にそれ自身を物語る声のレコードとして見ることのできるものである。これらの詩の中に現われた自然は科学者の取り扱うような・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・ この短詩形の中にはいかなるものが盛られるか。それはもちろん風雅の心をもって臨んだ七情万景であり、乾坤の変であるが、しかもそれは不易にして流行のただ中を得たものであり、虚実の境に出入し逍遙するものであろうとするのが蕉門正風のねらいどころ・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・雄弁な饒舌は散文に任して真に詩らしい詩を求めたいという、そういう精神に適合するものがまさにこうした短詩形であろう。この意味でまた日本各地の民謡などもこのいわゆるオルフィズムの圏内に入り込むものであるかもしれない。 詩形が短い、言葉数の少・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・美と云うものを唯一の生命にしてかいたものは、短詩のほかにはないだろうと思います。小説には無論ありますまい。脚本は固よりです。詳しく云うと、暇がかかるから、このくらいで御免蒙って先へ進みます。現代の理想が美でなければ、善であろうか、愛であろう・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
出典:青空文庫