・・・第三、地理書 地球の運転、山野河海の区別、世界万国の地名、風俗・人情の異同を知る学問なり。いながら知るべき名所を問わず、己が生れしその国を天地世界と心得るは、足を備えて歩行せざるが如し。ゆえに地理書を学ばざる者は、跛者に異な・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
立国は私なり、公に非ざるなり。地球面の人類、その数億のみならず、山海天然の境界に隔てられて、各処に群を成し各処に相分るるは止むを得ずといえども、各処におのおの衣食の富源あれば、これによりて生活を遂ぐべし。また或は各地の固有・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・今宵は地球と箒星とが衝突すると前からいうて居たその夜であったから箒星とも見えたのであろうが、善く見れば鬼灯提灯が夥しくかたまって高くさしあげられて居るのだ。それが浅草の雷門辺であるかと思うほど遠くに見える。今日は二の酉でしかも晴天であるから・・・ 正岡子規 「熊手と提灯」
・・・ あっちが英国さ、ここはもう地球の頂上だからどっちへ行くたって近いやね、少し間違えば途方もない方へ降りちまうよ。あっち? あっちが英国さ。』なんてほんとうに威張ってるんだ。僕たちはもう殆んど東の方へ東の方へと北極を一まわりするようになるんだ・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・そんなら何がその川の水にあたるかと云いますと、それは真空という光をある速さで伝えるもので、太陽や地球もやっぱりそのなかに浮んでいるのです。つまりは私どもも天の川の水のなかに棲んでいるわけです。そしてその天の川の水のなかから四方を見ると、ちょ・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・然し、真実、一人一人の日常の心が、何処まで汎人類的に活動しているか、時に疑わしく思う。地球上に在るおのおのの集団――国――が、現在どんな有機的関係を持っているか、又、どう云う運命の下に、日夜、同じ太陽を廻っているか。それ等を、わが胸で痛感す・・・ 宮本百合子 「アワァビット」
・・・そして、それを表現する芸術こそ、地球上の他のあらゆる生きものの動物性から人間を区別する光栄ある能力であり、その成果によって私たちははじめて生きてゆく自分たちの姿を客観し得るのである。そういう文学の砦として『新日本文学』は創刊されようとしてい・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・しかしそんな奴の出て来たのを見て、天国を信ずる昔に戻そう、地球が動かずにいて、太陽が巡回していると思う昔に戻そうとしたって、それは不可能だ。そうするには大学も何も潰してしまって、世間をくら闇にしなくてはならない。黔首を愚にしなくてはならない・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・他愛もない地球であった。私は地球を胸に抱きかかえて大笑いをしているのである。 まごついた夢 歩こうとするのに足がどちらへでも折れるではないか、…………… 面白くない夢 金を拾った夢。……………・・・ 横光利一 「夢もろもろ」
・・・時には人類を地球上の人間の総体と考える。すると、「少数の人にしか深い美は見えないのなら、美が何で人類の喜びかと思いたくなる」という懐疑が起こって来る。しかしこの懐疑は「人類」の意義が量から質に、物質から意味価値に移されるとき、たちまちに脱却・・・ 和辻哲郎 「『劉生画集及芸術観』について」
出典:青空文庫