・・・ と下女共が口々に出迎えまする。 帳場に居た亭主が、算盤を押遣って「これ、お洗足を。それ御案内を。」 とちやほや、貴公子に対する待遇。服装もお聞きの通り、それさえ、汗に染み、埃に塗れた、草鞋穿の旅人には、過ぎた扱いをいたしま・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・宅では何も知らぬ母がいろいろ涼しいごちそうをこしらえて待っていて、汗だらけの顔を冷水で清め、ちやほやされるのがまた妙に悲しかった。 五 芭蕉の花 晴れ上がって急に暑くなった。朝から手紙を一通書いたばかりで・・・ 寺田寅彦 「花物語」
・・・ 人格を見抜く力もなく、頭もなく、ちやほやされるままに気位なくあちこちと浮れ廻る娘は、只一人の真友も持ち得ないと同時に、女性に対して無責任、或は破廉恥な挙動をした者は、忽ち、友達仲間から除外されます。 相当な面目を保った異性間には、・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・たかなしさに逃げ出そうにも足はなしむざむざひどい目に合って死んで行くのをまって居るかなしい心をなんとしよう、ひげの御じさんあんたはあ何と云うどえらい御方じゃろう新らしい内はちやほやとどうぞ利益の有るようと・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
・・・今の世の中はとかくひかったものがちやほやされるだよ。こんちく生!」 すべろうとした足をくいとめて男は斯う云った。「なあにここで食えなくなったら又ほっつき廻ればらちがあくわな。 ここばっかりに天とうさまが照りゃあしめえー」・・・ 宮本百合子 「どんづまり」
・・・尾世川のずぼらなところがちょっとした女の気に入るのか、余りに女にちやほやされてずぼらになってしまうのか、兎に角彼に女とのいきさつは絶えることなかった。元の勤め口もその方面の失敗でしくじった事を、藍子は尾世川自身から聞いた。 その代り、気・・・ 宮本百合子 「帆」
出典:青空文庫