・・・ この間きいた実際の話で、或る小学校長が毎朝子供達に体操をさせるとき、忠孝、忠孝というかけ声をかけさせようかと提案して、居合せた人々を暫し呆然とさせたということがあった。 忠ということ孝ということ、それは健全である。だからと云って号・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・然し、中高な引しまった表情を、淋しげに亜麻色の髪の下に浮べたインディアンの娘は、殆ど誰も誰もが、地味な陰気な黒い着物を着て居ります。笑いも致しません。陽気な声で物も申しません。親ゆずりの靴を履いた足音を静かに立てて、彼方の部落へ姿を消して仕・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ 中高な門内の道を出ると菊太はチョイと振り返って草の両側に生えて居る道を、ポコポコと小さいほこりの煙をたてて帰って行く。 甚助の家の方へ曲る頃、祖母はありったけのくさくさを私に打ちあける。 やさしく仕て居ればつけ上り、きびしくす・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・二十四日には一同京都に着し、紫野大徳寺中高桐院に御納骨いたし候。御生前において同寺清巌和尚に御約束有之候趣に候。 さて今年御用相片づき候えば、御当代に宿望言上いたし候に、已みがたき某が志を御聞届け遊ばされ候勤めているうちに、寛延三年に旨・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
出典:青空文庫