・・・ 蕈は軸を上にして、うつむけに、ちょぼちょぼと並べてあった。 実は――前年一度この温泉に宿った時、やっぱり朝のうち、……その時は町の方を歩行いて、通りの煮染屋の戸口に、手拭を頸に菅笠を被った……このあたり浜から出る女の魚売が、・・・ 泉鏡花 「小春の狐」
・・・その伯父さんというのはだいぶ年の入った、鼻の先に痘痕がちょぼちょぼある人だという。小母さんも初やもいっしょに隣村の埠頭場までついて行ったのだそうである。夕方の船はこの村からは出ないのである。初やは大きな風呂敷包みを背負って行った。も少し先の・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・ 四月も末近く、紫木蓮の花弁の居住いが何となくだらしがなくなると同時にはじめ目立たなかった青葉の方が次第に威勢がよくなって来るとその隣の赤椿の朝々の落花の数が多くなり、蘇枋の花房の枝の先に若葉がちょぼちょぼと散点して見え出す。すると霧島・・・ 寺田寅彦 「五月の唯物観」
出典:青空文庫