・・・ といよいよその最後まで同じ調子で追求して来たのを聞くと、吉田はにわかにぐっと癪にさわってしまった。それは吉田が「そこまで言ってしまってはまたどんな五月蝿いことになるかもしれない」ということを急に自覚したのにもよるが、それと同時にそこま・・・ 梶井基次郎 「のんきな患者」
・・・ 私はこの想像を熱心に追求した。「そうしたらあの気詰まりな丸善も粉葉みじんだろう」 そして私は活動写真の看板画が奇体な趣きで街を彩っている京極を下って行った。 梶井基次郎 「檸檬」
・・・大乗の宗教はしかしそこまで徹しなければならないのであるが、倫理学が宗教ならぬ道徳の学であり、人間らしい行為の追求を旨としなくてはならぬ以上、実質的価値の倫理学は人倫の要求により適わしいといわねばならぬ。いずれにせよ、この形式主義か実質主義か・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・行為の決定の徹底的な正しさを追究するときには、カントのように純に意志そのものの形式によらざるを得なくなるのは当然であって、この意味で私は新カント派のリップスや、コーヘンの「純粋意志の倫理学」が、現象学派のハルトマンや、シェーラーの「実質的価・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・よりは、まだしも獲得の本能にもとづく肉慾追求の青年をとるものだ。「銀ぶら」「喫茶店めぐり」、背広で行くダンス・ホール、ピクニック、――そうした場所で女友を拾い、女性の香気を僅かにすすって、深入りしようとも、結婚しようともせず、春の日を浮き浮・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・をセンチメンタルだと評する人もあるが、あの中には「運命に毀たれぬ確かなもの」を追求しようとする強い意志が貫いているのだ。 ただ私は当時物質的苦労、社会的現実というもの、つまり「世間」を知らなかったから、今の私から見て甘いことはたしかに甘・・・ 倉田百三 「『出家とその弟子』の追憶」
・・・ 四 恋愛――結婚 恋愛のような人生の至宝に対しては、私たちはでき得る限り、現実生活の物的、便宜的条件によって、妥協的な、平板なものにすることをさけて、その精神性と神秘性とを保存し追究するようにしなければならぬ。心霊の高・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・自然主義文学に共通の特色をなす、全体的なことを書きながらも、その中の個の追求が、こゝでも主眼となっている。幾分、地主的匂いがたゞよっている。 一兵卒の死の原因にしても、長途の行軍から持病の脚気が昂進したという程度で、それ以上、その原因を・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・と遮る。「おや、まだ強情に虚言をお吐きだよ。それほど分っているならなぜ禽はいいなあと云ったり、だけれどもネと云って後の言葉を云えなかったりするのだエ。」と追窮する。追窮されても窘まぬ源三は、「そりゃあただおいらあ、自由自在に・・・ 幸田露伴 「雁坂越」
・・・或いはちゃんと覚えている癖に、成長した社会人特有の厚顔無恥の、謂わば世馴れた心から、けろりと忘れた振りして、平気で嘘を言い、それを取調べる検事も亦、そこのところを見抜いていながら、その追究を大人気ないものとして放棄し、とにかく話の筋が通って・・・ 太宰治 「女の決闘」
出典:青空文庫