・・・フー、フーと極めて微かに、私は幾度も耳のせいか、神経のせいにして見たが、「死骸が溜息をついてる」とその通りの言葉で私は感じたものだ。と同時に腹ん中の一切の道具が咽喉へ向って逆流するような感じに捕われた。然し、 然し今はもう総てが目の前に・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・ 人間の足が、地についてる処が疼いてるんだ。血を噴いてるんだ!」 私は、頭を抱えながら呶鳴った。 セコンドメイトは、私が頭を抱えて濡れた海苔見たいに、橋板にへばりついているのを見て、「いくらか心配になって」覗き込みに来るだろう。「ど・・・ 葉山嘉樹 「浚渫船」
・・・彼は箱についてるセメントを、ズボンの尻でこすった。 箱には何にも書いてなかった。そのくせ、頑丈に釘づけしてあった。「思わせ振りしやがらあ、釘づけなんぞにしやがって」 彼は石の上へ箱を打っ付けた。が、壊われなかったので、此の世の中・・・ 葉山嘉樹 「セメント樽の中の手紙」
・・・僕がやっと体骼と人格を完成してほっと息をついてるとお前がすぐ僕の足もとでどんな声をしたと思うね。こんな工合さ。もし、ホンブレンさま、ここの所で私もちっとばかり延びたいと思いまする。どうかあなたさまのおみあしさきにでも一寸取りつかせて下さいま・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・「ふん、そんなことは心配ないよ、はじめから僕は気がついてるんだ。そんなことまで何のかんの云うもんか。どっから来たろうって云ったら風で飛ばされて参りましたでしょうて云やいいや。」「そんなわけにも行くまいぜ。困ったな、どこか栗の木の下で・・・ 宮沢賢治 「二人の役人」
・・・「磁石もついてるよ。」 すると子どもは顔をぱっと熱らせましたが、またあたりまえになって、「だめだ、磁石じゃ探せないから。」とぼんやり云いました。「磁石で探せないって?」私はびっくりしてたずねました。「ああ。」子どもは何か・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・「ああそうか、どうりで人がついてるよ、人がいらあ。……ホイッポ……カゼ……ネツ……モリミョウ。おっかちゃん、ホイッポて何さ」「しずかにおしよ、おばさんがやかましいよ」 飽きると一太は起きて、竹格子につかまった。裏が細い道で、一太・・・ 宮本百合子 「一太と母」
・・・それで例えばこの赤ボッチが、また五日目についてるわけだな。間四日が働く日か。成程順ぐり緑や黄色がやっぱり五日目ごとにある。 ――ここを見ろ。 ――五月一日、二日。ははあ! やってるな、二日続いた一般の祭日か。 ――そいからこれを・・・ 宮本百合子 「正月とソヴェト勤労婦人」
出典:青空文庫