・・・仁右衛門を案内した男は笠井という小作人で、天理教の世話人もしているのだといって聞かせたりした。 七町も八町も歩いたと思うのに赤坊はまだ泣きやまなかった。縊り殺されそうな泣き声が反響もなく風に吹きちぎられて遠く流れて行った。 やがて畦・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・ 義母などの信心から、天理教様に拝んでもらえと言われると、素直に拝んでもらっている。それは指の傷だったが、そのため評判の琴も弾かないでいた。 学校の植物の標本を造っている。用事に町へ行ったついでなどに、雑草をたくさん風呂敷へ入れて帰・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・二つ夫婦そらうてひのきしんこれがだいいちものだねや これは天理教祖みき子の数え歌だ。子をなさぬ二人がなかのめぐし子と守りてぞ行かな敷島の道 これは子どものないある歌人の詠だ。 ブース夫婦、ガンジー夫婦、リ・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・子細は、其主人、自然の役に立ぬべしために、其身相応の知行をあたへ置れしに、此恩は外にないし、自分の事に、身を捨るは、天理にそむく大悪人、いか程の手柄すればとて、是を高名とはいひ難し」とはっきりした言葉で本末の取りちがえを非難している。してみ・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・女子を近づけながら、しかも繁殖を欲しないのは天理に反いている。わたくしはかつて婦女を後堂に蓄えていたころ、絶えずこの事を考えていた。今日にあっても、たまたま蘭燈の影暗きところに身を置くような時には、やはりこの事を考える。 繁殖を望まずし・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・ ゆえに世の富豪・貴族、もしくは政をとるの人、天理人道の責を重んじ、心を虚にして気を平にし、内に自からかえりみて、はたして心に得るものあらば、読書の士君子を助けてその術を施さしめ、読書家もまた己れを忘れて力をつくし、ともに天下の裨益を謀・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・結局その子をして無智無徳の不幸に陥らしめ、天理人道に背く罪人なり。人の父母としてその子の病身なるを患ざるものなし。心の人にしかざるは、身体の不具なるよりも劣るものなるに、ひとりその身体の病を患て心の病を患えざるは何ぞや。婦人の仁というべきか・・・ 福沢諭吉 「中津留別の書」
・・・に浴すべきものにあらず、苦楽相平均して幸いに余楽を楽しむものなれども、栄枯無常の人間世界に居れば、不幸にしてただ苦労にのみ苦しむこともあるべき約束なりと覚悟を定めて、さて一夫多妻、一婦多男は、果たして天理に叶うか、果たして人事の要用、臨時の・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
出典:青空文庫