・・・何でも坊間の説によれば、張氏の孫は王氏の使を受けると、伝家の彝鼎や法書とともに、すぐさま大癡の秋山図を献じに来たとかいうことです。そうして王氏は喜びのあまり、張氏の孫を上座に招じて、家姫を出したり、音楽を奏したり、盛な饗宴を催したあげく、千・・・ 芥川竜之介 「秋山図」
・・・カイヨオ夫人の話、蟹料理の話、御外遊中の或殿下の話、……「仏蘭西は存外困ってはいないよ、唯元来仏蘭西人と云うやつは税を出したがらない国民だから、内閣はいつも倒れるがね。……」「だってフランは暴落するしさ」「それは新聞を読んでいれ・・・ 芥川竜之介 「歯車」
・・・市民たちも、摂政宮殿下が御安全でいらせられるということは早く一日中に拝聞して、まず御安神申し上げましたが、日光の田母沢の御用邸に御滞在中の 両陛下の御安否が分りません。それで二日の午前に、まず第一に陸軍から、大橋特務曹長操縦、林少尉同乗で、・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・ 皇太子殿下、昭和八年十二月二十三日御誕生。その、国を挙げてのよろこびの日に、私ひとりは、先刻から兄に叱られ、私は二重に悲しく、やりきれなくていたのである。兄は、落ちつき払って、卓上電話を取り上げ、帳場に、自動車を言いつけた。私は、しめ・・・ 太宰治 「一燈」
・・・――否、もし皇太子殿下が皇后陛下の御実子であったなら、陛下は御考があったかも知れぬ。皇后陛下は実に聡明恐れ入った御方である。「浅しとてせけばあふるゝ川水の心や民の心なるらむ」。陛下の御歌は実に為政者の金誡である。「浅しとてせけばあふるゝ」せ・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・ 今年の春、田家にさく梅花を探りに歩いていた時である。わたくしは古木と古碑との様子の何やらいわれがあるらしく、尋常の一里塚ではないような気がしたので、立寄って見ると、正面に「葛羅之井。」側面に「文化九年壬申三月建、本郷村中世話人惣四郎」・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・「そうヨ、去年は皇太子殿下がおいでになるというてここも道後も騒いだのじゃけれど、またそれが止みになったということで、皆精を落してしもうたが、ことしはお出になるのじゃというて待っておるのじゃそうな。」「それじゃちょっと出て来よう。」「マアお待・・・ 正岡子規 「初夢」
・・・しかも、十年前にくらべると、一日のうちに自由時間を一時間半しかもてなくなって来ているこれらの主婦が目にふれ耳にきくのは、アメリカの電化された台所の簡易さである。主婦たちが、いろいろの内容のクラブをつくって有益にたのしく暮すときくが、それはつ・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・ 明るい、電化された大工場を中心に共同食堂がある。消費組合売店ではラシャの布地まで扱っている。托児所、学校、革命の家、病院は建築中だ。案内の若い、労働通信員をしている技師と工場内の花の咲いたひろい通路を歩いていたら、こっちでは電熱炉で鉄・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・ ソヴェトは生産力増大のために全同盟の電化と自動車化に異常な努力をはらっている。ニージュニ・ノヴゴロド市には、ほかならぬソヴェト・フォードの自動車製造工場が出来たのである。 それは、木造の門をもった大工場だ。その門から処女製作のソヴ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
出典:青空文庫