・・・その他金融、健康保護、休みの家、時には作家の家族の生活保証まで特種な組織があってやっている。 ソヴェトで或る組織の中に入って働いている人にとって、生活は一寸他の国で想像の出来ない根柢的な安心がある。そこで革命は無駄にやったことではないと・・・ 宮本百合子 「露西亜の実生活」
・・・これが、この花園の中で呼吸している肺臓の特種な運動の体系であった。 五 ここの花園の中では、新鮮な空気と日光と愛と豊富な食物と安眠とが最も必要とされていた。ここでは夜と雲とが現われない限り、病舎に影を投げかけるも・・・ 横光利一 「花園の思想」
・・・ 高田はそう梶に云ってから、この栖方は、特種な武器の発明を三種類も完成させ、いま最後の一つの、これさえ出来れば、勝利は絶対的確実だといわれる作品の仕上げにかかっている、とも云ったりした。このような話の真実性は、感覚の特殊に鋭敏な高田とし・・・ 横光利一 「微笑」
・・・このような話の真実性は、感覚の特殊に鋭敏な高田としても確証の仕様もない、ただの噂の程度を正直に梶に伝えているだけであることは分っていた。しかし、戦局は全面的に日本の敗色に傾いている空襲直前の、新緑のころである。噂にしても、誰も明るい噂に餓え・・・ 横光利一 「微笑」
・・・天才は勉強だ、彼らの才能はさほど特殊なものではない、才能少なくして偉大な人間になった人はあらゆる方面にある、彼らはただごまかしをしない、堅実な、辛抱強い Handwerker-Ernst があったのだ。――こういう言葉が私に力をつけてくれま・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
・・・ある程度の成功を見せているのは、右のごとき事情にもとづくとも考えられる。 このことは歴史画のみならず、一般に複雑な情緒や事件を現わす画についても言える。ある特殊な情緒に動いている人間の顔などは、モデルに頼ることができぬ。実生活のあるきわ・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
出典:青空文庫