・・・試みたいと思う技法は、とことんまでも駆使すべきです。書いて書きすぎるという事は無い。芸術とは、もとから派手なものなのです。けれども私は、もうおそいようです。骨が固くなってしまいました。ほてい様やら、朝日に鶴を書き過ぎました。私はあなたのお手・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・丁度、じりじりと悪くなるのを番していて、とことんになるのを待っていると云うようである。 午後一時頃やっと決心したらしく主任が来た。「じゃもうすぐ入院するようにしるから」 済生会病院へ行くことになった。特高が、フラフラの目を瞑って・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ ああいうとこの描写でも上手いわね。とことんのところまで色も彫りも薄めず描写して行く力は大きいものですね。谷崎は大谷崎であるけれども、文章の美は古典文学=国文に戻るしかないと主張し、佐藤春夫が文章は生活だから生活が変らねば文章の新しい美・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・そういう、とことんのところで消極的なものが包蔵されている心理で、良い恋愛の対象にめぐり会えまいことは一応わかることだし、その程度の対象では生涯の伴侶として決定しかねるという因果関係が生じて来るのもわかる。 真率な、健康な理性と情感とをも・・・ 宮本百合子 「成長意慾としての恋愛」
・・・場所がら、非人情という私の意味は人情を否定するのでなく、その人情の曲折を描くに、人情の埒内で暖まらず、そのとことんの現実にまで触れて行こうとするには、その人情なるものをも社会的な広さから作家として把握し得なければならないという気持であるとい・・・ 宮本百合子 「パァル・バックの作風その他」
・・・ 音楽も抜群であるし、絵をかかせればやはり目をひくだけの才気を示し、人の心の動きを理解する力も平凡ではないのに、桃子にはとことんの処へ行くとすらっと流れてしまうものがあった。一本気なところのなさが、桃子のいろいろの才能をも、つまりはちゃ・・・ 宮本百合子 「二人いるとき」
・・・現実に無くなってしまっているものとの漠然たる対比で、現在を下らながるのは、とことんのところにまだ矢張り昔の立身出世を心に置いているからである。人間らしい生活を営む道が殆どふさがっている。それにも拘らず私たちは生きている限り人間である。従って・・・ 宮本百合子 「若き時代の道」
出典:青空文庫