優れた作品を書く方法の一つとして、一日に一度は是非自分がその日のうちに死ぬと思うこと、とジッドはいったということであるが、一日に一度ではなくとも、三日に一度は私たちでもそのように思う癖がある。殊に子供を持つようになってからはなおさらそ・・・ 横光利一 「作家の生活」
・・・驚く程純血で、髪の毛は苧のような色か、または黄金色に光り、肌は雪のように白く、体は鞭のようにすらりとしている。それに海近く棲んでいる人種の常で、秘密らしく大きく開いた、妙に赫く目をしている。 己はこの国の海岸を愛する。夢を見ているように・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・そのお話しというのは、ほんとうに有そうな事ではないんでしたが、奥さまの柔和くッて、時として大層哀っぽいお声を聞くばかりでも、嬉しいのでした。一度なんぞは、ある気狂い女が夢中に成て自分の子の生血を取てお金にし、それから鬼に誘惑されて自分の心を・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
・・・また Fetisch という概念がアフリカの宗教の象徴として発明された。呪物崇拝などということは全くのヨーロッパ製である。ニグロ・アフリカのどこを探したってニグロの間には呪物の観念などは存していない。 こういうわけで、「野蛮なニグロ」と・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
出典:青空文庫