・・・そこで黐で獲った鴨を、近所の鳥屋から二羽買って来させることにした。すると小杉君が、「鉄砲疵が無くっちゃいけねえだろう、こゝで一発ずつ穴をあけてやろうか」と云った。 けれども桂月先生は、小供のように首をふりながら、「なに、これでたくさんだ・・・ 芥川竜之介 「鴨猟」
・・・ U氏が最初からの口吻ではYがこの事件に関係があるらしいので、Yが夫人の道に外れた恋の取持ちでもした乎、あるいは逢曳の使いか手紙の取次でもしたかと早合点して、「それじゃアYが夫人の逢曳のお使いでもしたんですか?」というと、「そん・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・そして客の註文を聞いたり、いろいろと取持ちをしたりする忙しい中で、ちょっとお三輪を見に来て、今のは名高い日本画家であるとか、今のは名高い支那通であるとか、と母に耳うちした。そういう当世の名士がこの池の茶屋を贔屓にして詰め掛けて来てくれるとい・・・ 島崎藤村 「食堂」
・・・「そんな鳥黐桶へ足突っこむようなこと、わしらかなわんわ。」とお霜は云った。「ひと晩でええわ。そしたら明日どこぞへ小屋建てよう、清溝の柿の木の横へでも、藁でちょっと建てりゃわけやないわして、半日で建つがな。」「それでもお前、十五六・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫