・・・ 数日後のこと、夜に入って千鶴子が訪ねて来た。同居している老人達とのいきさつが大分込み入って来たらしく話は主として実際の生活法についてであった。老夫婦が金貸しか何かそういう種類の職業で鍛えた頭で割り出し、目下千鶴子にすすめている縁談が、・・・ 宮本百合子 「沈丁花」
・・・ いろいろな男 生田と同居時代 同じ社の政治部の少し上の男と結婚、 その男代議士となる 女に対する淡白さ、彼女は良人を父とし、多勢若い男にとりかこまれ、良人子供をつれて客間を出、遊ばせにゆく。そういうもの分りのよさ。しか・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・「彼等のこの数年間の同居生活は、鴛鴦のようだと云っていけなければ、一対の小さな雀のようであったと云えよう。」 ところが或る日のことであった。午砲の鳴る頃、春桃は、いつもの通り屑籠を背負ってとある市場へ来かかった。突然入口で「春桃、春桃!・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・その空襲の翌朝、同居していた人に頼んで拘置所を見に行って貰い、それだけが残ったことを知った。治安維持法被告の非転向者は空襲がはじまると何時も監房の戸をかたく外から錠をかけられた。他の被告の監房の鎖ははずされた。私は宮本が「爆死」しなかったこ・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・ゴーリキイに稼ぎのなかった日、この心を痛ましめる睦しい同居者たちは四切のパンと二カペイキの茶、三カペイキの砂糖だけで一日を凌ぐことも珍しくない。ゴーリキイは波止場稼ぎを屡々やすんだ。プレットニョフは若い孤独なゴーリキイの生活の困難と危険とを・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ゴーリキイに稼ぎがなかった日は、この心を痛ましめる睦しい同居者たちは四片のパンと二カペイキの茶、三カペイキの砂糖だけで一日を凌ぐことも珍しくない。ゴーリキイは波止場稼ぎをしばしばやすんだ。プレットニョフのすすめで科学にとり組む仕事をはじめた・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・仕方がないから当分親たちと同居ということになったとき、民法が夫と妻とを単位とするからといって、若い妻に、嫁の慣習がおいかぶさって来ないと、どうしていえよう。夫婦で働いて生活してゆかなければならないものには、妻の家事の負担が、夫にとっても重大・・・ 宮本百合子 「離婚について」
・・・そしてつと座を起って退出したが、かねて同居していた源太夫の邸へも立ち寄らずに、それきり行方が知れなくなった。源太夫が家内の者の話に、甚五郎はふだん小判百両を入れた胴巻を肌に着けていたそうである。 天正十一年に浜松を立ち退いた甚五郎が・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
・・・ 爺いさんが隠居所に這入ってから二三日立つと、そこへ婆あさんが一人来て同居した。それも真白な髪を小さい丸髷に結っていて、爺いさんに負けぬように品格が好い。それまでは久右衛門方の勝手から膳を運んでいたのに、婆あさんが来て、爺いさんと自分と・・・ 森鴎外 「じいさんばあさん」
・・・それだけでは、君と同居しようとまでは、私には思われない。そこで私は君を、私の心安い宿屋に紹介する。宿屋では私に対する信用で、君を泊まらせて食わせて置く。その間に私は君のために位置を求める。それも、君だけの材能があって見れば、多少の心当がない・・・ 森鴎外 「二人の友」
出典:青空文庫