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・・・タネリは、やどり木に何か云おうとしましたが、あんまり走って、胸がどかどかふいごのようで、どうしてもものが云えませんでした。早く息をみんな吐いてしまおうと思って、青ぞらへ高く、ほうと叫んでも、まだなおりませんでした。藤蔓を一つまみ噛んでみても・・・
宮沢賢治
「タネリはたしかにいちにち噛んでいたようだった」
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・・・学士はいよいよ大股にその足跡をつけて行った。どかどか鳴るものは心臓ふいごのようなものは呼吸、そんなに一生けん命だったが又そんなにあたりもしずかだった。大学士はふと波打ぎわを見た。涛がすっかりしずまっていた。・・・
宮沢賢治
「楢ノ木大学士の野宿」