・・・昔の人でもおそらく当時彼らの身辺の石器土器を「見る」と同じ意味で化け物を見たものはあるまい。それと同じようにいかなる科学者でもまだ天秤や試験管を「見る」ように原子や電子を見た人はないのである。それで、もし昔の化け物が実在でないと・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・下婢に茶菓を持運ばせた後、その蔵幅中の二三品を示し、また楽焼の土器に俳句を請いなどしたが、辞して来路を堤に出た。その時には日は全く暮れて往来の車にはもう灯がついていた。 昭和改元の年もわずか二三日を余すばかりの時、偶然の機会はまたもやわ・・・ 永井荷風 「百花園」
・・・そして怒気を帯びて下女の前に一歩進んだ。下女は驚いて覚えず壁際まで跡しざりをした。「奥さんにそう云ってくれ。お手紙には及びません。どうぞお構い下さらないようにとそう云ってくれ。」こう言い放ってオオビュルナンは客間を出た。脚本なら「退場」と括・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・原始文化の土器について語るとき冷静である著述家も、今日と明日の文化について語るときは主観的な時代的な亢奮を示している例もあるし、ある場合には、著作者自身には知られているだけの客観的知識を、そのあるがままの現実で示されていない場合もある。文化・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・わり込んで腰をおろした女の人たちの二人は、守衛さんが云々とそれを楯に動こうとせず、先着の一人が化粧の顔に怒気を浮べて、わたしはひとの席までとっては、よう座りませんからと啖呵を切るようにしたら、守衛も、ここのところは先着の人に坐らして下さいと・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
・・・わが国でそういう原始芸術に当たるものは、縄文土器やその時代の土偶などであって、そこには原始芸術としての不思議な力強さ、巧妙さ、熟練などが認められ、怪奇ではあっても決して稚拙ではない。それは非常に永い期間に成熟して来た一つの様式を示しているの・・・ 和辻哲郎 「人物埴輪の眼」
出典:青空文庫