・・・の方が、音がどぎついように思われる。「どす黒い」とか「長どす道中」とか「どすんと尻餅ついた」とか、どぎつくて物騒で殺風景な聯想を伴うけれども、しかし、耳に聴けば、「だす」よりも「どす」の方が優美であることは、京都へ行った人なら、誰でも気づく・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・彼等はいわゆるエロチシズムの文学を攻撃する文章を極めて真面目な表情で書いておりますが、しかし、彼等の文章を読んでおりますと、彼等の使っているエロ文学だとか性の欲求だとか性生活だとかいう言葉がどぎつい感じで迫って来て、妙な逆効果を現わします。・・・ 織田作之助 「猫と杓子について」
・・・自然に愛情が、それを求めたら、それに従えばいいのだし、それを急に、顔いろを変えたり、色んなどぎつい芝居をして、ばかばかしい。女は肉体のことなんか、そんなに重要に思っていないわ。ねえ、数枝なんかだって、そうなんだろう? いくらひとりでお金をた・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・というかな文字で現わされるような爆音の中に、もっと鋭い、どぎつい、「ガー」とか「ギャー」とかいったような、たとえばシャヴェルで敷居の面を引っかくようなそういう感じの音がまじっていた。それがなんだかどなりつけるかまたしかり飛ばしでもするような・・・ 寺田寅彦 「小爆発二件」
・・・何に依らずわたくしは酸っぱいものを好みません、といっても、おすしとか酢の物なぞはたべますが、つまりわたくしのは、どぎつい酸っぱさを含んだものがたべられないのです。 飲料 わたくしは緑茶をずいぶん飲みます。御飯を・・・ 宮本百合子 「身辺打明けの記」
・・・何事にもあせりが目立ち、どぎつい表現があふれている今の世の中で、こういう達人の歌に接し得ることは、不幸に充ちたわれわれの生活の中で、まことにありがたい幸福だと言ってよい。 歌集『涌井』は動乱のさなかに作られた歌の集である。戦争の最後の年・・・ 和辻哲郎 「歌集『涌井』を読む」
出典:青空文庫