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・・・ それを聞いてから、私は両手に持てるだけ持っていた袋包みをどっかとお徳の前に置いた。「きょうはみんなの三時にと思って、林檎を買って来た。ついでに菓子も買って来た。」「旦那さんのように、いろいろなものを買って提げていらっしゃるかた・・・
島崎藤村
「嵐」
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・・・ 男爵がそのまま逃げるようにして、とみの家を辞し去ってから、青年は、応接室のソファに、どっかと腰をおろし、ひとりでにやにや笑った。とみが、こっそりドアをあけて、はいって来た。「作戦、図にあたれり。」不良青年は、煙草の輪を天井にむけて・・・
太宰治
「花燭」