・・・ここから土曜日の午後、一紳士が茶を飲んでいるのが見えたのである。絨毯が敷いてあるから足音がしなかった。今誰もいないがやがてここで茶を飲むであろう人間のために純白の布をかけたテーブルの上に八人分の仕度がしてあった。匙やナイフは銀色に光った。菓・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・ 天気の好い土曜、日曜などには、私はF君を連れて散歩をした。狭い小倉の町は、端から端まで歩いても歩き足らぬので、海岸を大里まで往ったり、汽車に乗って香椎の方へ往ったりした。格別読む暇もないのに、君はいつも隠しにドイツの本を入れて歩く。G・・・ 森鴎外 「二人の友」
・・・ 松の新緑が出そろってしまうのは、もう土用も遠くない七月の初めであったと思う。やがて一、二週間もすると、この新緑も落ちついた色に変わってしまう。柳の芽が出始めて以来、三、四個月の間絶えず次から次へと動いていた東山の緑色が、ここで一時静止・・・ 和辻哲郎 「京の四季」
出典:青空文庫