・・・跡はただ前後左右に、木馬が跳ねたり、馬車が躍ったり、然らずんば喇叭がぶかぶかいったり、太鼓がどんどん鳴っているだけなんだ。――僕はつらつらそう思ったね。これは人生の象徴だ。我々は皆同じように実生活の木馬に乗せられているから、時たま『幸福』に・・・ 芥川竜之介 「一夕話」
・・・彼は若い二人の土工に、取って附けたような御時宜をすると、どんどん線路伝いに走り出した。 良平は少時無我夢中に線路の側を走り続けた。その内に懐の菓子包みが、邪魔になる事に気がついたから、それを路側へ抛り出す次手に、板草履も其処へ脱ぎ捨てて・・・ 芥川竜之介 「トロッコ」
・・・が、どういうものか、その夜に限って、ふだんは格別骨牌上手でもない私が、嘘のようにどんどん勝つのです。するとまた妙なもので、始は気のりもしなかったのが、だんだん面白くなり始めて、ものの十分とたたない内に、いつか私は一切を忘れて、熱心に骨牌を引・・・ 芥川竜之介 「魔術」
・・・Mはタオルを頭からかぶってどんどん飛んで行きました。私は麦稈帽子を被った妹の手を引いてあとから駈けました。少しでも早く海の中につかりたいので三人は気息を切って急いだのです。 紆波といいますね、その波がうっていました。ちゃぷりちゃぷりと小・・・ 有島武郎 「溺れかけた兄妹」
・・・そして競馬のために人の注意がおろそかになった機会を見すまして、商人と結托して、事務所へ廻わすべき燕麦をどんどん商人に渡してしまった。 仁右衛門はこの取引をすましてから競馬場にやって来た。彼れは自分の馬で競走に加わるはずになっていたからだ・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・ その人は、大きな声で泣きつづけている妹たちをこわきにかかえたまま、どんどん石垣のある横町へと曲がって行くので、ぼくはだんだん気味が悪くなってきたけれども、火事どころのさわぎではないと思って、ほおかぶりをして尻をはしょったその人の後ろか・・・ 有島武郎 「火事とポチ」
・・・ ええもう小川で一等の旅籠屋、畳もこのごろ入換えて、障子もこのごろ張換えて、お湯もどんどん沸いております。」 と年甲斐もない事を言いながら、亭主は小宮山の顔を見て、いやに声を密めたのでありますな、怪からん。「へへへ、好い婦人が居りま・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・ おばあさんと、娘は、それはお気の毒なことだといって、宝石商をいたわり、火をどんどんとたいて凍えた体を暖めてやり、また、おかゆなどを造って食べさしてくれました。「私どもは貧乏で、お客さまにおきせする夜具もふとんもないのでございますが・・・ 小川未明 「宝石商」
・・・それは大阪の市が南へ南へ伸びて行こうとして十何年か前までは草深い田舎であった土地をどんどん住宅や学校、病院などの地帯にしてしまい、その間へはまた多くはそこの地元の百姓であった地主たちの建てた小さな長屋がたくさんできて、野原の名残りが年ごとに・・・ 梶井基次郎 「のんきな患者」
・・・ある晩のことに私が床を延べていますと、お俊が飛んで参りまして、『どうせ私じゃお気に入りませんよ』と言いざま布団を引ったくって自分でどんどん敷き『サア、旦那様お休みなさい、オー世話の焼ける亭主だ』と言いながら色気のある眼元でじっと私を見上・・・ 国木田独歩 「女難」
出典:青空文庫