・・・ひとを殴るなんて、狂人でなくちゃ出来ない事なんじゃないかな。僕はね、軍隊で、あんまり殴られるので、こっちも狂人の真似をしてやれと思って、工夫して、両方の眉を綺麗に剃り落して上官の前に立ってみた事さえありました。」「そりゃまた、思い切った・・・ 太宰治 「母」
・・・ あとは、なぐるだけだ。「花一輪。」サインを消せみんなみんなの合作だおまえのもの私のものみんなが心配して心配して やっと咲かせた花一輪ひとりじめは ひどいどれどれわ・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・ へらへら笑ってすまされる問答ではないのである。殴るのにさえ、手がよごれる。君の中にも!わが神話 いんしゅう、いなばの小兎。毛をむしられて、海水に浸り、それを天日でかわかした。これは痛苦のはじまりである。 いんしゅう・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・すなわち腕を、横から大廻しに廻して殴るよりは腋下からピストンのようにまっすぐに突きだして殴ったほうが約三倍の効果があるということであった。まっすぐに突きだす途中で腕を内側に半廻転ほどひねったなら更に四倍くらいの効力があるということをも知った・・・ 太宰治 「ロマネスク」
・・・叫び声、殴る響、蹴る音が、仄暗いプラットフォームの上に拡げられた。 彼は、懐の匕首から未だ手を離さなかった。そして、両方の巡査に注意しながらも、フォームを見た。 改札口でなしに、小荷物口の方に向って、三四十人の人の群が、口々に喚き、・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・ひとの頭を撲るやつは。」「勘定を払いな。」「あっ、そうそう。勘定はいくらになっていますか。」「お前のは三百四十二杯で、八十五銭五厘だ。どうだ。払えるか。」 あまがえるは財布を出して見ましたが、三銭二厘しかありません。「何・・・ 宮沢賢治 「カイロ団長」
・・・現象はみな善である、私が牛を食う、摂理で善である、私が怒ってマットン博士をなぐる、摂理で善である、なぜならこれは現象で摂理の中のでき事で神のみ旨は測るべからざる哉と、斯うなる、私が諸君にピストルを向けて諸君の帰国の旅費をみんな巻きあげる、大・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・その女の同志はハッとして何かを口へ入れてしまったと見ると、彼等は一時に折り重り、殴る蹴る。間に、一人がステッキを口へ突込んで吐かせようと、我武者羅にこじ廻したのだそうだ。「今市電が立ちかけてるのよ、残念だわ」 留置場の入口が開く毎に・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・突然、 ――日本にも、女房をなぐる亭主が沢山いるでしょうか? 思わず笑った、一同が。質問した女はどっかへ頭をひっこめている。笑いながら、みんなも日本女も、馬鹿な質問したとは感じなかった。古いロシアの農民はうんと女房をなぐった。亭主の・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・そして女房を殴る。工場ではどうかというと、男と同じに汗水たらして働くのに、賃銀は半分ぐらいしか取れぬ。子供を腹にかかえても、休めば工場をクビにされるから無理押しに働きに出る。そういう勤労婦人が仕事台の下へぶっ倒れて赤ん坊を生み落すのは昔のロ・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の婦人と選挙」
出典:青空文庫