・・・は、理屈を云わせないために、一寸した口ごたえをしようとしても、看守はその留置人をコンクリートの廊下へひきずり出して、古タイヤや皮帯で、血の出るまで、その人たちが意気沮喪するまで乱打して、ヤキを入れた。殴る者のいないときは、そういうもので留置・・・ 宮本百合子 「誰のために」
・・・下賤なもののけんかはけんかする同志がつかみ合う、蹴る、なぐる、やがてどちらか一方が鼻血でも出せば事がすみますがのう。 広い領地を持ってござる方々のけんかはそう手軽には参らぬでの。 つかみ合いがしたくなれば兵士を互に出してつかみ合わせ・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・ そばでもう一寸年の小さいのがやっぱり同じ作業をやっているのに低いかれたどす声で何か云っている。 ――何だって? なぐるぞ。 同じ低いどす声で云って顔を動かさず靴下を引っぱり上げている。 木の箱へ何かの鉄たがで工面したような輪が・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・けれども子供に道理がある場合、母親がそれを静かに聴くことも出来なくなっていて、いきなり気に入らないことを一言言えばもう殴るという状態になった時、子供はそれを尊敬する母親と思えるだろうか。子供がそれを軽蔑するのは当然といわなければならない。国・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・ 五 女を殴る 先日、あるひとが百貨店へ行って買物をしていたら、ついそのわきのところに一組の夫婦がいた。 何かのことで一寸いさかいをしていると思ったら、良人の方がいきなり手にもっていた紙の丸めた棒のようなも・・・ 宮本百合子 「私の感想」
出典:青空文庫