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・・・七十歳だった老人は白髯をしごきながら炉ばたで三人の息子と気むずかしく家事上の話をして、大きい音をたてて煙管をはたき、せきばらいしながら仏壇の前へ来ると、そこに畳んである肩衣をちょいとはおって、南無、南無、南無と仏壇をおがんだ。兄の嫁にあたる・・・
宮本百合子
「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
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・・・まして、いわんや、フランスがえりの梶なる男が、青畳の上にころがって官能的にこの世の力を悦びながら「南無、天知、物神、健かにましまし給え」と随喜する、その神々の健全なりし時代の日本的感情の中に於ておや。 梶は、日本人の今日の常識にとってさ・・・
宮本百合子
「「迷いの末は」」