・・・「何だ、馬鹿奴! お先真暗で夢中に騒ぐ!」と、こうだ。何処を押せば其様な音が出る? ヤレ愛国だの、ソレ国難に殉ずるのという口の下から、如何して彼様な毒口が云えた? あいらの眼で観ても、おれは即ち愛国家ではないか、国難に殉ずるのではないか? ・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・お前のいう通り若くて上品で、それから何だッけな、うむその沈着いていて気性が高くて、まだ入用ならば学問が深くて腕が確かで男前がよくて品行が正しくて、ああ疲労れた、どこに一箇所落ちというものがない若者だ。 たんとそんなことをおっしゃいまし。・・・ 川上眉山 「書記官」
・・・中央に構えていた一人の水兵、これは酒癖のあまりよくないながら仕事はよくやるので士官の受けのよい奴、それが今おもしろい事を始めたところですと言う。何だと訊ねると、みんな顔を見合わせて笑う、中には目でよけいな事をしゃべるなと止める者もある。それ・・・ 国木田独歩 「遺言」
・・・彼は、何だ、こんな男か、と思った。 二人が話している傍へ、通訳が、顔の平べったい、眉尻の下っている一人の鮮人をつれて這入って来た。阿片の臭いが鼻にプンと来た。鰌髭をはやし、不潔な陋屋の臭いが肉体にしみこんでいる。垢に汚れた老人だ。通訳が・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・其後親戚のものから、これを腰にさげて居れば犬が怖れて寄つかぬというて、大きな豹だか虎だかの皮の巾着を貰ったので、それを腰にぶらぶらと下げて歩いたが、何だか怪しいものをさげて居た為めででもあったかして犬は猶更吠えつくようで、しばしば柳屋の前で・・・ 幸田露伴 「少年時代」
・・・れへ……金田氏貴公も予て此の七兵衞は御存じだろう、不断はまるで馬鹿だね、始終心の中で何か考えて居って、何を問い掛けてもあい/\と答をする、それが来たので、妙な男で、あゝ来た来た、妙な物を着て来たなア、何だハヽヽ袖無しの羽織見たような物を着て・・・ 著:三遊亭円朝 校訂:鈴木行三 「梅若七兵衞」
・・・ 奥さんは子供衆の方にまで気を配りながら、「これ、繁、塾の先生が被入しったに御辞儀しないか――勇、お前はまた何だッてそんなところに立っているんだねえ――真実に、高瀬さん、私も年を取りましたら、気ぜわしくなって困りますよ――」 奥・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・ すると方々の王さまや王子たちは、何だ、そんなことなら、だれにだって出来ると言って、どんどんおしかけて来ました。 ところが、夜になって、王女のお部屋へとおされて、しばらく王女の顔を見ていると、どんな人でもついうとうと眠くなって、いつ・・・ 鈴木三重吉 「ぶくぶく長々火の目小僧」
・・・さっきもあんな工合に、さまざま黒板に書いて、新しい日本の姿というものをお前たちに教えたつもりだが、しかし、どうも、教えたあとで何だか、たまらなく不安で、淋しくなるのだ。僕には何もわかっていないんじゃないか、という気さえして来るのだ。かえって・・・ 太宰治 「春の枯葉」
・・・「かわいそうなことをしたね、何だえ、病気は?」「肺病だよ」「それは気の毒なことをしたね」 私はその前に一二度会ったことがあるので、かすかながらもその姿を思い浮かべることができた。私は一番先に思った。「遼陽陥落の日に……日本の・・・ 田山花袋 「『田舎教師』について」
出典:青空文庫