・・・三日分くらいの食料を持参して来たのだが、何せ夏の暑いさいちゅうなので、にぎりめしが皆くさりかけて、めし粒が納豆のように糸をひいて、口にいれてもにちゃにちゃしてとても嚥下することが出来ぬ。小牛田駅で夜を明し、お米は一升くらい持っていたので、そ・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・おにぎりは三日分くらい用意して来たのですが、ひどい暑気のために、ごはん粒が納豆のように糸をひいて、口に入れて噛んでもにちゃにちゃして、とても嚥み込む事が出来ない有様になって来ました。下の男の子には、粉ミルクをといてやっていたのですが、ミルク・・・ 太宰治 「たずねびと」
・・・身体の血が右の手首の方へ流れて来て、握っている束がにちゃにちゃする。唇が顫えた。 短刀を鞘へ収めて右脇へ引きつけておいて、それから全伽を組んだ。――趙州曰く無と。無とは何だ。糞坊主めとはがみをした。 奥歯を強く咬み締めたので、鼻から・・・ 夏目漱石 「夢十夜」
・・・ タネリはとうとう、叩いた蔓を一束もって、口でもにちゃにちゃ噛みながら、そっちの方へ飛びだしました。「森へは、はいって行くんでないぞ。ながねの下で、白樺の皮、剥いで来よ。」うちのなかから、ホロタイタネリのお母さんが云いました。 ・・・ 宮沢賢治 「タネリはたしかにいちにち噛んでいたようだった」
出典:青空文庫