・・・彼は、それを見て、にっこりと笑いました。 それから、また自転車に乗って、道を急いだのでありました。 彼は、小学校を卒業すると、すぐ都会の呉服屋へ奉公に出されました。それから、もう何年たったでしょう。彼は、勉強して、末にはいい商人にな・・・ 小川未明 「隣村の子」
・・・これを見た、お姉さんは、思わずにっこりなさいました。正ちゃんは、やっと、お姉さんに近づくと、「お姉ちゃん、おしるこがあるよ。だけど、たった、一杯!」と、大きな声で、いいました。歩いている人が、これをきいて、笑ってゆきました。お姉ねえさん・・・ 小川未明 「ねことおしるこ」
・・・ こういって、顔を見合わせて、にっこりしました。このとき、あちらからきみ子さんが、さっきの子ねこを抱いてやってきました。「どうしたの?」「お父さんが帰って、いけないとしかったの。」「だめだというのかい。」「お父さんが、返・・・ 小川未明 「僕たちは愛するけれど」
・・・と、文雄はやつれた姿になりながら、にっこりと笑っていいました。「ああ、遊ぼうよ、君、気分はちっとはいいかい。」と、良吉は笑顔になって、そのやせた哀れな友だちの手を握りました。しかし、これが別れでありました。とうとう文雄はその晩死・・・ 小川未明 「星の世界から」
・・・ そうする中に、志村は突然起ち上がって、その拍子に自分の方を向いた、そして何にも言いがたき柔和な顔をして、にっこりと笑った。自分も思わず笑った。「君は何を書いているのだ、」と聞くから、「君を写生していたのだ。」「僕は最早水車・・・ 国木田独歩 「画の悲み」
・・・『星が見えるよ、』と言って娘は肩をすぼめて、男の顔を見てにっこり笑う。『早くお入りよ、』と言って男は踏切の方へすたこら行ってしまったが、たちまち姿が見えなくなった。娘は軒の外へ首を出して、今度はほんとに空を仰いで見たが、晴れそうにも・・・ 国木田独歩 「郊外」
・・・と女は優しく言って、にっこり笑った。「なんにもいらない」と僕は言って横を向いた。「それじゃ、舟へ乗りましょう、わたしと舟へ乗りましょう、え、そうしましょう。」と言って先に立って出て行くから、僕も言うままに、女のあとについて梯子段をお・・・ 国木田独歩 「少年の悲哀」
・・・僕の足音を聞いて娘はふとこの方へ向いたが、僕を見てにっこり笑った。続いて先生も僕を見たがいつもの通りこわい顔をして見せて持っていた書を懐へ入れてしまった。 そのころ僕は学校の餓鬼大将だけにすこぶる生意気で、少年のくせに大沢先生のいばるの・・・ 国木田独歩 「初恋」
・・・るをこらえるもおかしく同伴の男ははや十二分に参りて元からが不等辺三角形の眼をたるませどうだ山村の好男子美しいところを御覧に供しようかねと撃て放せと向けたる筒口俊雄はこのごろ喫み覚えた煙草の煙に紛らかしにっこりと受けたまま返辞なければ往復端書・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・と、「そうですね」と、にっこりしたが、何だか躊躇の色が見える。二人で行ったとて誰が咎めるものかと思う。「だってあんまりですから」と、ややあって言う。「何が」「でもたった今これを始めたばかりですから」「ついでに仕上げてしま・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
出典:青空文庫