・・・「ああ、そんなことどこかで聞いたっけねい。行こう。」「どうか。ではさよならね。」「さよならね。」そしてカン蛙は又ピチャピチャ林の中を歩き、プイプイ堰を泳いで、おうちに帰ってやっと安心しました。 * ・・・ 宮沢賢治 「蛙のゴム靴」
・・・ているとこに、そっくり塩水が寄せたり引いたりもしていたのだ。このけものかね、これはボスといってね、おいおい、そこつるはしはよしたまえ。ていねいに鑿でやってくれたまえ。ボスといってね、いまの牛の先祖で、昔はたくさん居たさ。」「標本にするん・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・農民三「はぁでな、お前さま、おれさ叮ねいに柄杓でかげろて言っただなぃすか。」爾薩待「いやいや、それはね、……」農民二「なあに、この人、まるでさっきたがら、いいこりゃ加減だもさ。」農民一「あんまり出来さなぃよだね。」・・・ 宮沢賢治 「植物医師」
・・・ あの山では主のような小十郎は毛皮の荷物を横におろして叮ねいに敷板に手をついて言うのだった。「はあ、どうも、今日は何のご用です」「熊の皮また少し持って来たます」「熊の皮か。この前のもまだあのまましまってあるし今日ぁまんついい・・・ 宮沢賢治 「なめとこ山の熊」
・・・ 京子の方を見てポックリ頭を下げて千世子の方に目を向けてたしかめる様にも一度、「ねいいでしょう。と云った。 千世子はだまってがっくんをした。 京子は間のわるそうないかにも世なれない様子をして、 なぜ別な部・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・ホラ晴た夜に空をジット眺めてると初めは少ししか見えなかった星が段だんいくらもいくらも見えて来ますネイ。丁度そういうように、ぼんやりおぼえてるあの時分のことを考うれば考えるほど、色々新しいことを思出して、今そこに見えたり聞えたりするような心持・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
出典:青空文庫